カエルのおすすめ:『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』

人間の脳って謎…。そして、やっぱり怖いのは人間!
久しぶりのおすすめコンテンツ紹介5回目の今回はたまたま出会った1巻読み切り漫画をおすすめ。
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2024.01.07
誰でも

 昨年8月末、謎の体調不良で寝転がっているしかなくて、あまりに暇だったので、(ポイント欲しさにLINEで「友だち」になっていた)雑誌などの公式アカウントの記事をポツポツ読んでいた時に目に留まったのが、『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』を紹介する記事だった。

鼻にフォークの衝撃

 まぁ、タイトルそのままなのだが、簡単に言うと、「電話をする約束を守らなかったということで交際相手(クズ谷彼ピッピ)にキレられて突き飛ばされた作者のかりんこさんが、別れを告げて去ろうとしたところ鼻にフォークを刺された」という事件の顛末を綴ったものだ。なんで鼻?しかもフォーク?と思って、無料で公開されている部分を試し読みしてみたのだが、無料で読めるのは、鼻を刺されたかりんこさんが救急搬送されてから「一時的記憶喪失」になったというところまでで、その続きがどうしても気になって仕方がなかった。人間の脳は大きなストレスに対してどんな防衛反応を見せるのか、そして、何がキッカケになって記憶を取り戻すのか、どんなリハビリを行なうのか。
 野次馬根性と言ってしまえばそれまでだが、そういったことに関心がある。冒頭で述べたように、ちょうど体調が悪くて何もできないし、U-NEXTのポイントもあるし…ということで、電子書籍をポチったわけだ。

 鼻にフォーク刺されるって、まぁ、えらい事態だし、痛そうだし怖いのだが、漫画自体はむしろコメディタッチというか、随所に笑える仕掛けもあり、なかなかサービス精神に富んでいるので、笑ってはいけない(笑ってる場合じゃない)と思いつつも、ついつい笑ってしまうところもあった。無事に回復して、この漫画を描けるまでになって本当に良かった、と一読者に過ぎない私でも思う。

 刺された事件、隣人による救出、入院から回復までの過程、警察とのやりとり…とドラマか?という展開なのだが(こんなドラマがあったら、むしろ「ンなことあるわけねーだろ!」と言われそうだけど)、最後まで読むと、彼氏が「クズ谷彼ピッピ」などというふざけた名前になっている理由もわかるようになっている。

ここから先は多少のネタバレを含みます。たぶん、ネタバレしないで読んだ方が面白いと思うのと、できれば漫画を買って読んでほしいので、その点を考えて続きを読むかどうか決めてください。

以外な悪役と難しい選択

 私は、記憶喪失からの回復過程が特に気になって購入したのだが、かりんこさんが記憶を取り戻し、隣人たちの協力の下で、クズ谷が起訴されて裁判になって…という展開に当然なるだろうと思っていた。しかし、読み進めていくと、比較的早い段階から雲行きが怪しくなってくる。しかし、それでも「あのクズには刑務所に入ってもらう!」となるよね?とちょっと期待してしまうのだが、まぁ、そうなっていたらこの漫画描けてないよね、そりゃ…。

 そういう意味では、少し肩透かしを喰らった感じを覚えなかったわけではない。ただ、現実はそううまくいかないものだよなぁ〜という気もする(でも、鼻刺されてんのに…)。権力に対して個人がひとりで立ち向かうのは本当に難しいことだし、自分だったとしても家族を巻き込んで(自分自身も危険に追い込んで)まで闘える自信はない。ほんと腹立つなーと思うし、こういう不正がまかり通ってしまうなんて、やっぱ神とかいないでしょ?という気持ちになってしまう(と話が飛躍してしまうのが、信仰を持たない人間だからなんだろうと思う)。

 ただ、かりんこさんの例は、「権力に対して一個人は非力ではあるけれど、無力ではないかも」と思わせてくれる。実際に、事件は漫画になって出版され、見ず知らずの私にまで知られることになったのだから。ということで、クズ谷ファミリーのクズっぷりが出来るだけ世に広まり多くの人の知るところとなることは、個人にできる権力への細やかな抵抗なので、できれば買って読んで欲しいのである。

闘っても闘わなくても被害者は存在している

 かりんこさんのような劇的な経験はなくとも、私たちの日常には理不尽に弱いものが黙らされることが多々あるということを、(特に女性で)知らないひとはいないと思う。権力・影響力のあるひとや組織を相手にしたとき、個人ではどうしようもないことは、残念ながらある。
 なんで闘わないんだ!と外野が言うのは簡単だ。かりんこさんにも「会社名言っちゃいましょう!」とか味方のつもりで気楽に言うひとはいるだろうと思う。しかし、そうやって無責任に煽るひとたちは、いざ、告発者が報復を受けたとしても助けてはくれない。善意のつもりで、当事者が被る被害のことを考えることを忘れてしまう人間も、残念ながらそれなりに存在している。
 そんな社会で、それでも自分の受けた被害を公にし、第三者からの心無い言葉に晒されながらも闘うことを選ぶ人もいる。私のような無名でお金もない一般人にできることは限られているけれど、被害者を支援する道を探して連帯をしたいと思う。
 そして、直接闘うだけでなく、こういう方法もあるのだ、という例の一つが、かりんこさんの漫画だと思う。そういう意味では、漫画の存在そのものが痛快でもある。

 どうせ何もできやしない、と思っているヤツらに、ちょっとでも「もしかして(悪事が)バレた?」という不安を抱かせてやれたなら、それはそれで第一歩。そうやって社会全体で少しずつでも抵抗していたら、社会の空気もすこーしはマシになっていくんじゃないかな、と期待を込めたい。

***

 2度目のコロナ罹患でクリスマス〜三が日までほとんど寝てただけで終わってしまったので、長文など書けるわけもなく…でも、やっぱり年も明けてそろそろニュースレターを出したいな、と思いまして、とりあえずはおすすめコンテンツ紹介の方をお届けです。

 本文にもある通り、8月も体調不良だった事を思い出すと、なんだか一年の半分くらいは体調不良な気がして、ほんと人間の身体って弱いなぁ〜と思いますね。他にも少し気掛かりなことがあったために、不眠症に陥ったりとメンタルもだいぶ弱いので、そろそろどこかの大富豪が気まぐれで50億円くれねーかなぁなどと夢想してしまいますが、現実はそうもいかないので、今年もコツコツと仕事をしながら、もう少しニュースレターやnoteの更新もしていけると良いなと思っています。

 本年もよろしくお願いします。

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