カエルのおすすめ:『悪魔のいけにえ』『X エックス』『Pearl パール』

2025年3月のホルガ村カエル通信はホラー映画おすすめ特集!
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2025.03.28
誰でも

 前々回、前回に引き続き、国際女性デーにゆるりさん(@1zzxf2iwqDqwdGM)とツイッター(現X)のスペースで話題にしたホラー映画をおすすめ。今回は『悪魔のいけにえ』&それへのオマージュ満載の「田舎に行ったら襲われた」系ホラー(by荒木飛呂彦)の『X エックス』と『Pearl パール』の話~。

『悪魔のいけにえ』(1974年)

 原題The Texas Chainsaw Massacreに『悪魔のいけにえ』と邦題をつけたセンス…昔の邦題って凝ってるよなぁ~と思う。が、この映画を観たことがない(原題を知らない)人は、普通に悪魔、もしくは悪魔に捧げ物をしてる人たちが出てくると思うような気がするんだが、全然悪魔と関係がない。でも、とってもインパクトのある忘れられないタイトルになっていて、すごいよね。こういう「邦題について考える」のは、機会があったらまたのんびりと記事にしてみたいのだが、それはまた別の話。

 で、悪魔とは関係ないこの映画は、祖父の墓参りついでに古い親戚の家(今は誰も住んでいない)でのんびり過ごそうと、若者5人がテキサスの田舎町にバンに乗ってやって来て殺人鬼一家と遭遇してしまう、という話。殺される側に何か理由があるわけではないので、遭遇してしまった側からしたら本当に意味がわからない話だが、叫ぼうが泣こうが誰にも届かなそうな広大な土地、暑苦しい空気、数々の不穏な小道具などの「嫌度」が高い。そして、一番キャラが立ってるのが、「レザーフェイス」というチェーンソーを振り回す殺人鬼なのだが、なぜか殺した人の顔を仮面にして被っている。(野田サトル『ゴールデン・カムイ』の江渡貝君を思い出した人もいるかもしれないが、レザーフェイスも江渡貝君と同じく、実在の殺人鬼エド・ゲインをモデルにしているという説があるらしい。)怪力の大男キャラだし、片手でチェーンソーぶんぶんするし、人殺しなのだが、こいつが妙に「お母さん風」に見える時もある(殺人一家には女性が一人もおらず、レザーフェイスがエプロンをして家事をしている模様)。レザーフェイスのインパクトが強過ぎて、ちょっと霞まなくもないが、その兄弟も突然自分の手のひらを切りつけるなど、行動の意味がわからなくて大変怖い。

 まぁ、そんな連中とうっかり遭遇してしまった若者たちは理由も前触れもなく、惨殺されていくのだが、その中に「なんなんだ、これは?」という脱力シーン(ハンマーのあれ。めちゃくちゃ怖いのに、意味がわからな過ぎて笑ってしまう)もあったりして、驚きの連続だった。それなりにグロ耐性はある方だし、衝撃的な映像にもそこそこ慣れた21世紀の観客であるはずの私にも「新しい!」と思わせるところがあって、これを70年代に観た人たちはびっくりしただろうと感じた。殺人鬼は、怨霊と違って時空を超えてこっちに来る心配がないので、呪い系が怖い人のホラー映画入門としてもおすすめできる。ただし、けっこう「痛そう」なところはあるので、そこは要注意。

 さて、この傑作古典ホラー作品へのオマージュたっぷりのホラー映画3部作が2022年に作られており、その第1作目『X エックス』(以下『X』と表記)と第2作目『Pearl パール』(以下『パール』と表記)については、先日のスペースでも少し話した。第3作目『MaXXXine マキシーン』(以下『マキシーン』と表記)だけは、なぜか日本公開が遅れていて、どうなってるのか?と思っていたところ、今年の6月に劇場公開が決まったようだ。ということで、ゴールデンウィークにでも、『悪魔のいけにえ』と『X』、『パール』を観て準備をしておくといいかも…

『X エックス』

 2022の映画である『X』だが、舞台は1979年で「若者たちがバンに乗って田舎(テキサス)にやって来て殺人鬼夫婦に遭遇してしまう」話である。ただし、『悪魔のいけにえ』と違うのは、過去のホラー映画作品(特に殺人鬼もの)への批判的な言及を含んでおり、よってフェミニズム的な要素も盛り込まれているところだ。若者たちは、農場を借りてそこでこっそりポルノ映画を撮ろうとしている。メンバーは男女それぞれ3人ずつ(カップル3組)で、男性はプロデューサー、俳優、カメラマン(一応自称としては芸術映画監督なのかな?)で、女性は俳優2名と録音担当。
 農場の持ち主は老夫婦なのだが、この2人がまさかの殺人鬼で、やってきた若者たち(ただし、プロデューサーだけちょっとおっさん)が次々と殺されていくのだ。

 殺人鬼もので男女どちらかだけが犠牲になることは基本的にないが、だいたいはヒロインが一人だけ生き残るパターンが多い。スペースでは、こういった類型を表わす「ファイナル・ガール」という概念があることを、ゆるりさんが話してくれていた。『X』もある意味では、その例に漏れないのだが、「ファイナル・ガール」は知的で無垢で性的な経験がないパターンが一般的なのに対して、『X』のヒロインであるマキシーンは、性的に奔放な女性なところが新しいということも、ゆるりさんに指摘されて気付いた。言われてみれば、殺人鬼もの映画において、「セックスしたカップルは死ぬ」は、もはや「お約束」だし…。
 そして、過去のホラー映画などで観客の嗜虐欲を満たす殺され方をしてきたであろう「セクシーな金髪女性」よりも「僕は女性の性的主体性を尊重してますよ」みたいな顔をしていながら、実際には、カメラの前で脱ぐ女性を見下している男の方が殺され方が酷かったり、「これはポルノではなくて芸術なのである」「君はスターの資質がある」などと言いながら、結局は女性を性的に搾取しているだけの男が「痛ぇぇぇ」と観ているこちらもゾワゾワしてしまう目に遭ったりするので、「よし!」という気持ちになる。ついに、殺人鬼ものにも「クソ男討伐」感が導入されたか!という爽快感。まぁ、一番怖い目に遭うことになっちゃうのは、女性だけども…。
 で、殺人鬼夫婦の方なのだが、なにせ老夫婦なので、レザーフェイスのような力技で襲いかかってくるわけではないし、見た目も「機嫌悪そうだな」とか「様子がちょっと変な気がする」とは思えても、命の危険を感じさせるわけではない。しかし、油断するとヤバい!というところも意外性があって良かった。

 もう少しネタバレしてあれこれ書きたいところなのだが、やはりホラー映画には「フレッシュな残酷描写」(byライムスター宇多丸)を観る楽しみもあると思うので、あまりネタバレし過ぎない方がよいと思うので、このくらいにしておこう。怨霊系でも悪魔系でもないので、「ネタバレしてから見た方が怖くない」タイプのストーリー展開があるわけでもないので、とりあえず観よう!

『Pearl パール』 

(※『X』よりはちょっとネタバレ感強めになります)

 3部作の2本目である『パール』は、『X』の前日譚で、殺人老夫婦の妻=パールの若かりし頃の物語だ。時は1918年、パールは、『X』でも舞台となっていた農場で、第一次世界大戦に従軍中の夫の帰りを待ちながら、敬虔な母と身体が不自由な父と3人で暮らしている。元々、映画スターに憧れているパールは自分の部屋や家畜小屋で歌ったり踊ったりしており、自分のことを「優秀なダンサー」だと思っている。ある時、地方を巡業するショーのダンサーのオーディションがあることを知り、張りきって出かけるパールだが…。

 今でこそ「田舎暮らし」に憧れる人もいたりするけれど、それは、ネットもあって、外の世界との繋がりを持つ事が出来るし、多少の配送の遅れはあってもAmazonで何でも注文できるからなのではないかと思ったりする。そういった現在の田舎暮らしと比べて、1910年代のアメリカの田舎で女性として暮らすことの困難というものは、想像するだけでも気が滅入る。母親はやたらと厳しく(ただし、彼女がそうなったのにも女性差別や抑圧が関係あるんだろうと思うと切ない)、父親は要介護で、夫は戦地という家庭で、これといった娯楽もなく、友だちもいない。家畜の世話をし、父親の介護をする代わり映えのしない毎日。時々、町に住んでいる(らしい)従姉妹がやってくるが、それなりの現金収入があるらしき親族から「施される」ことに、パールの母は嫌悪感を持っているようだし、パールもおそらく従姉妹に嫉妬はしている(この従姉妹が良い子なのが、またツラい)。自分は一生この農場から出ていけないのか?という恐怖というか落胆というか、そういった息苦しさがよく描かれている。

 また、パールを演じるミア・ゴスの狂気溢れる、妄想が入り交じるミュージカルシーンが異様で不気味で大変怖い。普通、妄想ミュージカルシーンは…ファンタジックなことが多い。ホラー映画であっても(『スウィーニー・トッド』を思い出して言ってる)。しかし、パールのミュージカルは全部怖い。すごい。あんな怖いミュージカルシーンがこれまであっただろうか、いや、ない!ということで、ミュージカルクラスタも観て震えてほしい。

 ちょっと検索するとすぐバレてしまうことなので、書いてしまうが、パールを演じているミア・ゴスは、『X』および『マキシーン』でマキシーンを演じてもいる。つまり、殺人鬼とファイナル・ガールが同一人物によって演じられているのである(『X』では特殊メイクで老人になったパールも演じている)。その理由は『X』ですでにある程度明かされているが、パールと比べるとまだ常識的に見えなくもないマキシーンが次作では完全覚醒するのではないかと思われるので、楽しみだ。

 なお、前回のニュースレターでおすすめした『ラストナイト・イン・ソーホー』と共通していることとして、ショービジネスの世界に憧れる女性とその女性を搾取しようとする男達の存在が描かれていることが挙げられる。こうしたテーマに踏み込む作品が増えているというのは、やはり#MeTooの影響が大きいのだろうと思う。告発も出来ずに耐えてきた世代の女性たちを、若い世代の女性たちが演じることで、そこには世代を超えた連帯が感じられるし、おそらく今でも完全にゼロではない性的搾取を「許さない」という社会的メッセージとしても機能する。こうやってバトンを繋いでいる女性たちの存在には勇気づけられる。
 そういった制作面での「女性同士の連帯」は既に感じられるのだが、物語上は、『X』『パール』の時点では、まだ世代を超えた女性同士の連帯にはなっていないので、『X』の後日譚である3作目『マキシーン』でパールとマキシーンは共闘できるのか?というのも気になるところ。時代が変わっても、社会がそれなりに変わっても、やっぱりまだ女性差別はあるし、性的に搾取されやすい立場の女性というのはいる。『ラストナイト・イン・ソーホー』でエリーがサンディに心を寄せたように、マキシーンにもパールに共感できるところは大いにあるだろうし、なんらかの形でパールも救われて欲しいと思う。まぁ、エリーたちと比べて、パールたちの方がだいぶ怖いけど…。

***

 今回のホルガ村カエル通信は以上です。
 『マキシーン』について、ミア・ゴスが「ポルノスターをヒーローとして演じた」と言っていて、“文化のポルノ化“(よろしければ、過去記事「美は選択なのか」も読んでみてください)を憂いている人間としては、ちょっぴり警戒もしてしまうのですが、ポルノスターとして成功したマキシーンがどんな経験をしていくのかによって、現在(特に日本で?)幅を利かせている「女性の性的自己決定権に“だけ“は前のめり」文化を批判的に描く事も可能だと思うので、そういう方向でヒーローになってもらいたいと期待しています。

 今月は、予定していたわけではないものの、ホラー映画おすすめ特集になりました。結果として、国際女性デーのある3月に、それなりにふさわしいものになったのではないかと思っています。アクセス数を見ると、邦画よりも洋画に関心がある人が多いのかなぁ~という印象なんですが、邦画ホラーの方が情景とかに馴染みがある分、怖いというか…「あぁ、ああいう場所って確かに何か出そう」みたいなのが感じ取れる面白さがあると思います。なお、ゆるりさん曰く、最近の邦画ホラーはギャグ路線が多いそうです。「ネタだよ、ネタwww」みたいな方に逃げずに真面目に作っている人たちもいるとは思うんですけど、日本社会全体が「ネタ無罪」信仰が強過ぎるところとか、90年代以降なんだかんだでずっと続いている「真面目にやるのはダサい」という傾向なんかも関係しているのかもしれないですね。
 ホラーというか、サスペンスは丁寧な描写がないと成立しにくいので、「真面目に」「丁寧に」作らないといけないジャンルなんじゃないか、という気がします。日本のエンタメ業界が、そういう「即、興行収入に繋がる」かどうか分かりにくい部分に予算や時間を使えなくなっているのであれば、日本の文化全体にとって残念なことだと思います。

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