カエルのおすすめ:『鬼談百景』『東海道四谷怪談』&荒木飛呂彦の映画論

国際女性デーに女ふたりでホラー映画を語る音声配信をして楽しかったので、その時に話題にした映画を数回に分けておすすめ!今回は和ホラー編。
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2025.03.14
誰でも

 ご存知の方もいらっしゃると思うのだが、今年(2025年)の国際女性デーにはツイッター(現X)で、ゆるりさん(@1zzxf2iwqDqwdGM)とふたりでホラー映画を語る「ふぇみ談百景」というスペース(音声配信)を行った。2時間ちょっとネタバレしつつも緩く語って、のべ45名程の方に聞いていただけたのだが、せっかくなので、そこで話題にした映画を何度かに分けてニュースレターで改めておすすめしておくことに。すでに過去におすすめしている『残穢―住んではいけない部屋』以外の作品の中から、今回は日本のホラー映画2本をおすすめ。

『鬼談百景』

 読者からの投稿怪奇現象を小説化した「実録怪談もの」という形式のオムニバス映画で、原作は『残穢』と同じく、小野不由美の小説だ。というか、この『鬼談百景』の実録怪談のうちのひとつが『残穢』である、という設定なので、『残穢』関連作品であり、『残穢』と同じく小説家による語りが入る形式になっている。そのため、ある意味でワンクッション置いた形で観賞できるホラーとして、「日本のホラー苦手!」と思っているひとが最初に観るのにもよいかも(断言はできないけども)。ただ、その小説家の語りと実際に映像になっているものにちょっとしたズレが生じている話もあり、そこが面白かったり、不気味だったりもする。

 映像としてはコミカルだけれど、実際に体験したら死ぬほど怖いな…と思う「追い越し」、個人的には子どもが痛そうな目に遭うところがなんかキツいと思う「続きをしよう」、ゆるりさんが女の幽霊がハイヒールを履いている(コツコツ女性の足音がする)設定は『牡丹灯籠』のお露さんの木履の音の現代版では?と指摘してくれた「赤い女」など、タイプの違うホラー小話が観られて楽しい。そして、なんといっても、一番最後の「密閉」は最高なので、爽やかな気持ちで観賞を終えられること請け合い。

『東海道四谷怪談』(中川信夫監督、1959年) 

 日本の怪談話と言えば…の代表作、あのお岩さんのあれだ。私には、日本の幽霊とか怨霊とかはどーも怖いというイメージが強くあったのだが、よく考えてみると、お岩さん(とその周囲の人々)に酷いことをした男がお岩さんに呪われるという話なので、「クソ男討伐譚」としてお岩さんを応援しながら観れば怖いどころか熱い!ということが分かった。
 この映画は始まりからして「舞台ですよ」という形になっているので、そういう意味でもある種の「作り物」っぽさがあって、絵画的な面白さもある。殺陣は振り付けだし、血飛沫も飛ばない。そして、お岩さんの夫になる伊右衛門は、無駄にプライドが高い割にたいして何もできない(剣術の腕だけはそこそこある?)小心者のクソ野郎なのだが、自分のことを「運に恵まれない犠牲者」だと思っていそうな節がある。そんな伊右衛門を唆して自分もなんとか旨い汁にありつこうとする直助は比較的分かりやすい小悪党タイプのクソ野郎。伊右衛門たちの「お岩さん殺害計画」に巻き込まれる宅悦は、自分から何か悪いことを考えて実行するほどの度胸はないが、悪事のおこぼれに預かれるなら…と寄ってくるハゲタカタイプのクソ野郎だ。3人ともそれぞれにタイプの違うクソ野郎なところが、クソ男への理解が深い。
 まぁ、そんなクソ男たちのせいで命を落としたお岩さんが化けて出るわけだ。これはもう応援するしかない。生前のお岩さんは病弱で元気がないことが多く、機嫌の悪い伊右衛門に八つ当たりで怒鳴り散らされたりしているのだが、化けて出ると強い。これまでの恨みを全部ぶつけるべく、とことんビビらせてやってほしいな♪とワクワクしてしまった。そして、唯一、マトモな男である与茂七(お岩さんの妹=お袖さんの許嫁)を救世主にすることなく、お岩さん(幽霊)とお袖さんの姉妹ふたりの活躍により伊右衛門は討伐されることになる。
 この話でちょっと気の毒なのは、ビビりの伊右衛門が幽霊のお岩さんを見て刀を振り回すせいで巻き添えを食らう人たちだ。まぁ、伊右衛門という男に関わったから仕方がないのかなーと思うのだが、あれをお梅さん(伊右衛門の新しい妻であるお金持ちの娘さん)に対するお岩さんの嫉妬だと解釈する人がいそうなのは少し嫌だなと思う。あれは、どう考えても伊右衛門が嘘つきの小心者なせいだ。そして、繰り返しになるが、その伊右衛門を討伐するのは、お岩さんとお袖さんの姉妹なのである。

 この話が「怖い話」として語られるのは、社会が想定する「ひと」が男性だからかもしれないなという気がする。語る人も聞く人も男性で、「周囲に唆されて」とか「仕方がなく」とか言い訳をしながら、女性に恨まれるようなことをした自覚がある男性たちにとっては、伊右衛門は自己投影できる主人公なのかもしれない。だから、「ついカッとなってやってしまった」ことを隠蔽しようとして、さらなる罪を重ね、嘘を重ねる伊右衛門を「かわいそうな犠牲者」と見なす男性もいるのだろうと思う。そう考えると、ますます女性にとってはお岩さんはスーパーヒーロー枠に近い。是非とも"クソ男バスター"として活躍するお岩さんの映画として『東海道四谷怪談』を観てもらいたい。

呪いの方向性の話

 さて、『東海道四谷怪談』のように「酷いことをした男」が「酷いことをされた女」から呪われる話というのは、自業自得だし、現在も続く女性差別を思えば、私などは圧倒的にお岩さんを応援するしかないし、男は全員震えて待て!という気持ちになるので、あまり怖いという感情は湧いてこない。画面に急に何かが映ったり、急に音がしたりして吃驚することはあっても、どちらかと言えば幽霊側に当事者として感情移入してしまうことで、「もっとビビらせてやれ!いいぞ!」となる。
 一方、『残穢』など(映画の歴史100年超の中では)比較的近年の日本のホラー映画は「呪いの方向が無差別」というところで、誰もが「自分も呪われるかも?」と思わされる怖さがある。これについては、ゆるりさんとも「彼女たちの不幸の原因である男を優先的に呪って欲しい」という話をした。それから、男は自分が怖い思いをして、それから逃れたいがために「俺が悪かった」と言うことはあっても、彼女たちの苦しみに共感したり、その苦しみを追体験することはできない存在なのかもしれない、というようなことも。女性が「男に殺された女性の幽霊」にとりつかれる場合、そこには時空を超えたシスターフッドのようなものが求められているということも考えられるのかな、と。

 なお、私が化けて出ることがあったら、ビジュアル的には少しメタルっぽくなりたいけど、典型的な「ホラー映画に出てくる女」のビジュアルの方が相手を怖がらせるのには有効かもしれないので、やっぱ白いワンピースにロングヘアをざーっと垂らした方がいいのか?とか考えてしまうよね。

荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』

 ついでなので、ホラー映画に関連した本も紹介しておきたい。
 SNSなどでは時々言及してきているのだが、私は子どもの頃に漫画を読まない生活をしていた。私の記憶では、漫画を禁止されていたと思うのだが、最近母から「禁止って言ってたっけ?」と訊かれて、確かに「禁止です!」とは言われてなかった気がする。しかし、とりあえず、当時の女児が読むような『ときめきトゥナイト』とかそういう少女漫画を買い与えられることはなく、自分で漫画を買えるほどのお小遣いを貰っていたわけでもないので、実質的に禁止だったと言っていいんじゃないか、と思う。ちなみに、本は「ほしい」と言ったら買ってもらえた記憶。最初に自分から欲しがって買ってもらったのは『もじもじびすけっと』(講談社の幼年創作童話シリーズらしい…。絶版なので情報がない)だったはず。脱線してしまった…。

 というわけで、荒木飛呂彦の漫画も当然まったく知らないまま大人になった。「ジョジョ」という響きは知っていたのと、中学の時の知人が「自分の好きな○○さんは荒木飛呂彦に似ている」と言っていたことで名前だけは認識していたのだが、その両者がきちんと結びついたのも、ジョジョのアニメを観たのも30代になってからである。実家暮らしで「ほとんどヒモ」などと言われていた(註:仕事してたし家計費も入れていたのだが、とにかく家事を全くしなかった)頃に、ケーブルTVのアニメ専門チャンネルでジョジョの第1部、第2部の一挙放送があったのだ。「この機会に見てみようっと」と軽い気持ちで見始めて、まぁ、見事にハマったわけだ。そして、漫画を大人買いし(文庫だけど)、ついでに荒木飛呂彦の新書も買ってしまった、というわけ。
 当時ホラー映画をほとんど観てなかったくせに、なぜ?と思われるかもしれないが、ジョジョには映画オマージュが色々出てくるし、ストーリーテリングが「映画見てるひと」のそれだな…と感じたし、特に1・2部はホラーテイストが強いこともあり、その荒木飛呂彦の語る映画論は絶対に面白いはず!という勘で購入。基本的にネタバレをあまり気にしない上に、ホラー映画は観るつもりがないのでネタバレ上等なわけで、楽しく読了したのだが、最近、ホラー映画を観るようになったのでパラパラ読み返しているところだ。で、改めて、やっぱり面白いのである。ホラーを敬遠している人にも読んで欲しいかんじ。まぁ、ただ、2010年代始めの本だし、荒木飛呂彦は1960年生まれなので、ミソジニー味は否めないところはある。でも、それでも読む価値はあるかな、と。

ゾンビの本質とは全員が平等で、群れて、しかも自由であることで、そのことによってゾンビ映画は「癒される」ホラー映画になりうるのです。
『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』61ページ

とか、映画評論家とか映画研究者は言わなそうなことが書いてあるので、もともとホラー映画好きで詳しい人も楽しく読めるはず。荒木飛呂彦が紹介している映画のうち、まだ観てないものの方が多いので、私もこれから頑張りたい。

***

 今回のホルガ村カエル通信は以上です。
 ニュースレターを配信するに当たって、ウィキペディアで『東海道四谷怪談』の項目を観たのですが、案の定、伊右衛門に同情的な記述が見られて、やれやれです。映画評論の世界にももっとミサンドリーが必要なんじゃないかと思えてきますね。
 スペースでは洋ホラーも色々取り上げてお喋りしたので、それは、また次回におすすめしたいと思います。まさか自分がこんなにホラー映画をおすすめする人間になるとは…と自分でも驚いているのですが、みなさんも是非、ホラー映画で元気になりましょう!
 荒木飛呂彦の新書はもう一冊、『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』も持っていますが、こちらも楽しいので是非!

 それと、『残穢』をおすすめした際に書き忘れたのですが、あの映画はポストクレジットシーン(?)があるので、アマプラで視聴する場合は途中で次の映画に飛ばされないように気をつけてくださいね。

 では、また次回の配信でお会いしましょう🐸

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