カエルのおすすめ:『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

何を今さら…感が否めないものの、ポップでキャッチーでおかわいい(「おかしくて可愛い」ことを表わすケロ家語)アニメ映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』をおすすめしたい。
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2024.01.30
誰でも

ゲーム機と私とマリオ

 私は、人生で一度も「ゲーム機」を所有していたことがない。スマホやPCで無料で遊べるゲームをすることはあるけれど、ゲームをするための専用のゲーム機は持っていたことがないので、当然のことながらスーパーマリオブラザーズのこともあまりよく知らない。小学生の頃、友だちの家で少し遊ばせてもらったことはあるものの、なにせ自分で持っていないので、コントローラーの操作もろくにできないわけで、全然弱くて最初の数秒で撃沈されて、その後は友だちがプレイするのを横で眺めている時間の方が長かった。
 友だちのマリオがひょいひょいと動くのを見てるのは楽しい時もあれば、少し退屈な時もあったように記憶しているが、敵キャラがかわいらしく、土管やらブロックやらの画面も面白くて印象に残るものだったことは間違いない。多分、両手で数えられる程度しか「遊んだ」ことがなかったにもかかわらず、あのステージの基本デザインや音楽はしっかり記憶に刻まれていた。その後、マリオカートなどの新しいゲームについては、全くやったことがないし、他人のプレイを見た事さえないのだが、広告などで目に入るデザインなどはやはり印象に残っている。

 さて、その程度の思い入れなので、劇場映画化の話を目にしたときも「ふぅ~ん」と思っただけだったし、劇場公開されて大好評であることを見聞きしても「へーそうなんだ」と思ったものの、あまり関心が湧かないままだったのだが、観てみたら、ゲームをやっていなくても充分に楽しめる内容だったし、アニメだからこそ、ゲーム原作(?)だからこそできる表現やストーリー展開になっていて、しかも、子どもから大人までみんながそれぞれに楽しめる内容の最強映画だったので、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(以下「マリオムービー」と略す)を、ここで力いっぱいおすすめしたい。

動く絵を見ることの愉楽

 マリオムービーがおすすめなのは、まず、何よりもアニメーションのクオリティが高い。などと書くと今となっては当たり前のような話ではあるが、別の言い方をするなら「映像として観ているだけで楽しい」という、「映像作品」としての原点に忠実なところが良い。もともとのキャラのビジュアルが良いというのもあるが、それぞれのキャラの動き、色遣い、画面構成が「動く映像を見る喜び」を与えてくれる。

 映像技術の発展の歴史に関心のある人なら、人間がその時代その時代に出来得る限りの努力をして「絵を動かそう」としたこと、「絵が動いているように見える仕組みを作ろう」としたことを知っていると思うのだが、技術的な問題がほぼクリアされた現在、その動く映像をどこまで魅力的にしていけるのかの一つの到達点がマリオムービーなんじゃないか、と個人的には思う。
 大袈裟に聞こえるかもしれないが、私がマリオムービーを観ようと思ったのは、年末に国際線に乗った際に斜め前の子どもがマリオムービーを観ているのが見えて(当然音声などは全く聞こえない)、その映像だけで「これは観なければいけないヤツだ!」と強く確信させられたからなのだ。飛行機の小さな画面だし、機内アナウンスがあれば、中断されるという環境ではあったが、さっそく観ることにした。

 マリオムービーは、機内では英語(字幕無し)で観るか、吹き替え版で観るかの選択肢しかなかったので、吹き替えで視聴。期待通りに映像が楽しいし、物語のテンポもよく、サントラも良かったので、こんな楽しい映画を映画館に観に行かなかったなんて!!と後悔したものの、遅くなったとはいえ、観るきっかけを作ってくれた、斜め前の子どもに感謝である。そして、ほんの少しとはいえ、ゲームで遊ばせてもらった経験があったこともありがたかったなぁと思った。

 マリオのゲームでたくさん遊んだひとであれば、もっともっと懐かしかったり嬉しかったりするのだろう。マリオカートをやっていたら、この場面はもっと楽しいだろうなぁーとか色々想像しながら観て、それはそれで楽しかった。そして、やっぱりあのゲームのデザインは秀逸だと思う。
 それぞれの動植物の持つ特徴を可愛らしさを損なわない形でデフォルメしてキャラクター化しているのに過剰に可愛くしすぎていないという絶妙なラインといい、土管やブロックという単純な形の組み合わせで作られる多様なステージといい、一度聴いたら忘れられないメロディといい、他のゲームでこんなに印象に残っているものはない気がする。当時の技術の制約の中から生まれたものもあっただろうが、結果的に無駄がなくて飽きのこないものになっているように見える。子どもが遊ぶことを想定したキャラなのに、ヒゲのおっさん(マリオ)にしたのも面白いなと思う。

癒やしのおかわいさ

 さて、帰国の飛行機内あたりから体調不良が顕在化して帰国と同時に新型コロナ発症だったので、クリスマスから年末年始までほとんど何も出来なかったのだが、唯一できたことは、iPadでマリオムービーを英語音声+日本語字幕で視聴することだった。
 新型コロナは、色々個人差も大きいものの、私に関しては、割とメンタルに来る傾向が強く、2度目の罹患で今回は同居人にも移してしまったことでだいぶ心が荒んでいたのだが、マリオムービーを観ることは文字通り「癒やし」になった。

 マリオとピーチ姫の「出会う」場面も最高だし、キノピオの「ボクたち、こんなにかわいいのに!」という自意識はおかわいい。最初のペンギン王国もかわいいし、クッパ軍団がメタルだし、クッパがバラード歌うし…。まぁ、まだ観てないひとは、とにかく、騙されたと思って観てください。日本語吹き替え版と英語版だと少し台詞のニュアンスが異なるところがあったり(それは「あえてそのようにした」と任天堂の宮本茂氏がどこかで話していたはずなんですが、インタビュー記事を発掘できなかったので、見つけられたらこのニュースレターのweb版にリンクを追記します)、どちらも良いので両方観るのもおすすめです!

***

 2023年末、5年と数ヶ月ぶりに海外に行ったのですが、今回の国際線で強く感じたことは、日本が貧しくなっているということでした。まず、コロナ禍前までは成田や羽田発の国際線に乗ると7割くらいは日本語話者のことが多かった印象なんですが、今回は完全に逆転していました。もしかすると、逆転した以上に日本語話者が少なかったかもしれません。私が乗った便だけではなく、同じ時間帯に出発する国際線に乗る人々の圧倒的多数が「お土産を買って帰る外国人観光客」だったように見えました(出国審査後の日本土産のお店も大繁盛)。 

 そして、機内エンターテインメントでは、中国語字幕、韓国語字幕つきの映画やドラマはかなり多いものの、日本語字幕は非常に少なく、吹き替え版も決して多いとは言えないことにも気付きました。世界における日本という国のプレゼンスが下っていることは、ここ15年くらい感じてきたことでしたが、アジアの中でも良くて3番目であるということを機内エンタメで実感しました。相変わらず「日本スゴイ」系のニュース動画などもfacebookに勝手に流れてくるので目に入りますが、日本が「安くなってる」からこそだったりするので、喜んでる場合じゃないよなぁ~と思います。

羽田空港にて

羽田空港にて

 では、また次の配信でお会いしましょう。

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