私にとってのミサンドリー

【特集:ミサンドリー】第1回は「私にとってのミサンドリー」と題してミソジニーとミサンドリーの違いを考えます。
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2021.02.26
誰でも

 3月8日は「国際女性デー」なので、ホルガ村カエル通信では今回から3月いっぱいはそれにちなんで他の媒体ではほぼ無視されるか、なんなら「悪いフェミニズム」の例として言及されてしまいそうなミサンドリーを大特集!しようと思います。

  • ミサンドリーってなに?

  • ミソジニーと同じでミサンドリーも良くないのでは?

  • ミサンドリストは男性を差別している?

そんな疑問に答えて、その上でミサンドリーをポジティブに捉えていくことを目指します。

ミソジニーとミサンドリー

 まず、言語の成り立ちの話をしておくと、語源はギリシア語で「嫌悪」を表わすmisosと「男性」を表わすandrosで、同じく「嫌悪」と「女性」guneから成るミソジニーmisogynyの対義語ということになる。(ギリシア文字を出すのは面倒だから気になる人は自分で調べてくれー。私はラテンアルファベット以外のアルファベットが全然覚えられない人間なのである。)
 そのため、ミソジニーを批判する人間は当然ミサンドリーも批判すべきである、と考えるひとはとても多い。女性であろうと男性であろうと、その属性で括って嫌悪することは悪いことではないのか?そう考えるひとが多いのも理解は出来る。
(なお、ミソジニーは「女性嫌悪」などと訳されるが、これが最適な訳語なのかは難しいところだ。以下の江原由美子さんによる現代ビジネスの記事は参考になるので、よろしければどうぞ。)

 このニュースレターを読んでくれている多くのひとには先刻承知の話であろうが、しかし、ミソジニーはホモソーシャルの支柱としての機能を果たしている。ホモソーシャルは「男性同士の絆」なのだが、そこでは「女性を排除すること」と同時に「同性愛者ではないことの証明として女性を性的に獲得すること」が行われる。女性はホモソーシャルの一員とは認められないが、ホモソーシャルを構成する男性の性的パートナーとしてのみ、片隅に存在することを許されるのである。
 "ホモソ"と略して使うひとも増えた、このホモソーシャルという概念だが、それは単なる「均質なメンバーによる社会」ではないし、「内輪ノリ」「全体主義」「同調圧力」のことでもない。ここがわからないままフェミニズムに口出ししている男性がけっこういるので、改めて確認しておきたい。社会学用語としての「ホモソーシャル」はミソジニーとホモフォビアを支柱として、異性愛の男性同士だけが排他的に絆を結ぶことを許可された社会のことを指している。少なくとも私はそういう意味であると理解して使ってきた。
 だから、「フェミニストのホモソーシャル」や「女性のホモソーシャル」は言語的におかしいと感じる。(こうした言葉をよく使っているのは、私の観測範囲だと、いわゆる「親フェミ=フェミニズムに親和的な考え方の男性」なのだが、女性たちが「親フェミ」である自分を女性同士のグループに招き入れ、女性同士の共感や連帯に同じように参加させてくれないことがよほど不満なのだろうが、図々しくてとりあえず熊と薪を用意しないといけない気がする。)
 「ホモソノリ」の中には同調圧力も大いにあるのだが、それはあくまでホモソーシャル内での傾向の話であり、ホモソーシャルとイコールではない。女性同士がどれだけ共感しあおうと、それは「内輪ノリ」には成り得ても、ホモソではない。この違いは大事だと思っている。
 なぜなら、ホモソーシャル社会にはミソジニーが組み込まれて、ある種制度化されてさえいるからだ。それゆえに女性差別は意識されにくく、改善もされにくい。健常者異性愛男性に最適化された今の社会では、ミソジニーは意識されない。当たり前のことだから。人間が普段は呼吸するときにいちいち意識しないのと同じく、女性を見下し、同性愛者(特に男性同性愛者)を忌避するのが「当たり前」になっていることを男性は意識しない。さらには、女性であっても意識せずに生きていることも多い。

 では、一方のミサンドリーはどうだろうか?まず、ミサンドリーを支柱とする社会というものは存在していない。女性を二級市民としておくことで男性が富や権力を独占する社会、女性を男性の資産として管理する社会はあるが、その逆はない。つまり、男性を男性であることを理由に差別する社会は存在していない。


 森喜朗による女性差別発言それ自体だけでなく、それを巡る(主に)男性たちの同情と擁護の声の中にも、女性に対する「黙れ」「わきまえろ」「口のきき方がなっていない」というメッセージが驚くほどたくさんちりばめられていた。女性が"女性であることを理由に侮辱されたこと"に反論しただけで、男性(中心)社会はここまで動揺してしまう。さらには、「女性差別をするな」が"男性に対する攻撃"であるかのように受取られることさえある。「強い言葉では(怒ってばかりでは)男性に理解してもらえない」と言われる。
 正当な異議申し立てでさえも、なんだかんだと理由をつけて批判される社会で、女性による「男性嫌悪」は「悪」と捉えられる。社会の支配層である男性は絶対であり、その存在や価値に傷を付ける可能性のあるミサンドリーを含む言説は、ミソジニー社会から常に攻撃と見なされ、排除すべきものとされているのである。

ミサンドリーとは何なのか?

 では、具体的には、ミサンドリーとはなんなのか?簡単に言えば、上記のようなミソジニーに溢れた社会へのカウンター、「アンチ・ミソジニー」こそがミサンドリーである、と私は捉えている。言語的には対となっている概念だが、ミサンドリーはミソジニーとは異なり、「男性」というものを見下して社会から排除した上で性的オブジェクトとして搾取してやろうというものではない。ミソジニーに染まった言説・社会に異議申し立てするのがミサンドリーだ。

 もちろんミソジニストもミサンドリストが嫌う対象であるため、現在の日本だとだいたい98%くらいの男性はミサンドリストから嫌われる運命ではあるが、ミサンドリストはミソジニストを嫌った結果、「近寄りたくない」「関わらないでほしい」と思っているだけで、わざわざ男に近づいていって「連続金玉潰し事件」とか起こさないので安心してほしい。
 また、男性から「話せるフェミニスト」「共感できるフェミニスト」「正しいフェミニスト」認定してもらいたいという気持ちがゼロなので、口のきき方には気をつけない。むしろ男に共感されてたまるか!というかんじなので、「俺はミサンドリーもいいと思うよ」とか言って「応援してます」「俺は理解のある男です」感出されてもウザいから、黙って投げ銭でもしてくれ

 最後に、ホモソーシャルは、なぜミソジニーと並んでホモフォビアも支柱とするのか、に簡単に触れておくと、男性は「性的主体」として「性的客体」である女性を獲得すべき、という規範があることはアンチフェミでも知っていると思う。女性を獲得すべきという社会的要請があるにもかかわらず、女性を得ることができないことでミソジニーを拗らせて「女が悪い」になってるパターンもあるくらいで、「男たるもの、"女をモノにする"ことができて一人前」っていう圧力は強い。だからこそ、自分が"モノにされる"可能性を想起させる男性同性愛者への恐怖を伴う嫌悪があり、自分を決して受け入れることがない女性同性愛者への憎悪がある。
 とは言え、百合好き公言男も多いし、「百合に混ざりたい男(お前が混ざったら百合じゃねーだろ、馬鹿)」もかなりいるらしいので、やはりホモフォビアは「自分が"モノにされる"恐怖」の方とより深く結びついているように思う。日本社会において、比較的早い時期から「オネエタレント」にだけはそれなりの「居場所」があったのも、彼らがあくまで「女性役」に、「男から下りた」者たちで、性的主体としての男性の主体性を揺るがすものではないと見なされたからではないかと思う。

 ここまで読んでも「やっぱりミサンドリーは良くないと思う」「ミサンドリーは男性差別だと思う」というひともいるのだろう。そういうひとは、どうぞご自分で「男性にも共感してもらえるフェミニズム」を実践してください。私はそれを直接邪魔するつもりは当然ないし、それが入り口となる男性もいるにはいるのだろうと思う。ただ、私はもうその段階を経験した上で、ミソジニーに染まった男からの共感など湿った薪のように役に立たないことを実感しているので、乾いた薪をくべてミサンドリーの炎を明るく燃やす決意である。

***

 今回のホルガ村カエル通信は以上です。
ミサンドリーという単語が少し広まってくると同時に「ミサンドリーはよくない」という声がフェミニストを自認するひとからも出てきたり、ミサンドリーをサブカル悪ふざけ的にとらえて「後で恥じることになる」と言い出す男がいたりしたのが目についたので、積極的にミサンドリストを自称するようにしています。

 今回は少し用語に特化した内容になってしまいましたが、基本的には明るく楽しく軽やかにミサってこう!という感じです。次回の定期配信は私がミサンドリストであると自覚した経緯やミサンドリーを深めた理由などをお話ししたいと想います。また、【再録】シリーズや映画関連のものも配信予定です。
 ご意見やご感想などもお聞かせください。#ホルガ村カエル通信

 それでは、次回配信でまたお会いしましょう〜!🐸

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