2026年2月の選挙に寄せて
大衆はチョロいのか?
年明け早々解散総選挙ということで、昨年末にちょびっとだけ期待をかけた買春者処罰の議論もお流れか?と思いきや、1月30日付の朝日新聞の記事によると、法務省は「買う側の勧誘行為も処罰の対象にする」ことなども含めた売春防止法の改正に向けた検討会を設置するらしい。取り立てて反対している勢力も(国会内に)いないし、割とサクサクと進むのではないかとは思うが、「買春者処罰」だけでなく、「被買春者」の女性の保護と支援の充実もセットで進めることが欠かせないというところまで踏み込んでもらえるように、これからも様々な形で声を上げていきたいし、この問題に取り組んでいる当事者(元当事者)の女性たちの声が多くの場できちんと拾いあげられていくことを願っている。
それはそれとして、また選挙である。これで国会の勢力図が再び大きく変わる可能性に対する不安はある。今回の衆院選、1月末の情勢では、自民党が単独過半数を占めるのではないかとの予想が出ている。高市首相は私の予想を超える人気だ。左派からは「トランプに媚びている」などと言われたものの、強硬左派で知られる韓国大統領ともドラムセッションしてしまうし、諸外国での評価も日本の左派・リベラルが言うほどは悪くないように見える。自民党が弱っている時なのに、いや、もしかすると「だからこそ」かもしれないが、高市首相への支持は熱い。大して人気がなかった自民党を「ぶっ潰す」と宣言して人気者になった小泉純一郎とは少し方向性が違うが、高市が「古き悪き自民党」に対するアンチテーゼのように受け止められているという点は似ているかもしれない。
女性であるが故に差別されながら、それを跳ね除けて首相にまで上り詰めた高市の姿は「親ガチャ」がハズレでも努力で報われることがあることを体現していると受け止められている、といった分析もPRESIDENT onlineの記事で読んだが、正直に言うと、これはちょっと私には欠けている視点だった。そして、もうずっと不景気で賃金も上がらない閉塞した社会に生きる人々は「努力が報われる」という物語を欲しているのかもしれない、と感じる。私がまだ10代だった90年代に暗い音楽や厭世的な語りが持て囃されたのは、そんな「諦め」を口にするのがまだ「新しいこと」だったからで、長年「諦め」が蔓延し切った社会は新しい希望を求めているということかもしれない。そこに颯爽と登場したのが、高市早苗だったのではないか。
そんな世間を「ちょろい」「騙されている」「愚かだ」と断ずる声の方が、私のSNSには圧倒的に多い。しかし、見方を変えるなら、その「チョロくて騙されやすくて愚かな大衆」を「騙して」でも自分たちの支持者にすることさえできない我々(左翼)とは一体なんなのか?と自問せざるを得ない。諸外国と比較しても日本の左翼は嫌われ過ぎているような気がする。なぜ、チョロいはずの大衆に常に嫌われ続けるのか?それは「大衆が愚かだから」なのか?大衆は愚かだと言い続ける左翼がさらに愚かだからなのか?
普通に考えて、他人をやたらと馬鹿扱いしている人間は感じが悪いものである。感じの悪さを補って余りあるほどの人間的な魅力(場合によっては経済的な魅力?)のある人物というのも存在はするが、非常に稀有なので、左派・リベラルは、とりあえずは「感じ良くする」という当たり前のところから始めるしかないと前から言ってるんだが、著名な左派言論人にもネットで左翼活動をしている人たちにも届かないので歯痒い。
強キャラ女性首相が老練政治家たちを憤慨させたり(麻生太郎に相談せずに衆院解散とか)、自分と政治的には相容れない自民党議員をへっちゃらで冷遇したり(ずっと比例1位だった村上誠一郎を比例10位にするとか)、これがフィクションだったら、結構面白い政治劇になるだろうなぁ~と現実逃避したくなってしまうのだが、残念なことに、フィクションではなく、私たちの生きる現実なので、本当にどこからどう手をつけたらいいのか、何に希望を見出したらいいのか(むしろ絶望すべきなのか)、そして自分の一票をどこに託すべきなのか、途方に暮れながら過ごしているところだ。
そして、見慣れたつもりの野党の迷走っぷりもなかなかだ。特に、国民民主党による女性支援の「生理政策」というダサピンクのポスター(しかも党首の玉木雄一郎が謎に手を差し伸べている写真付き)のSNS投下は強烈過ぎた。政策綱領を見れば、女性支援の一環として「生理の貧困」問題や生理に関する教育などに取り組むという非常に真っ当な話であることがわかるのだが(国民民主にはずっとこの問題を取り上げてきた伊藤孝恵議員もいる)、ポスターにするなら「女性支援」とか「女性差別の撤廃」とかそういう文言にした方が良かっただろうし、「女性のことだからピンク!」という安直さに「お前(玉木)、女性差別のこと真面目に考えたことあるか?(不倫野郎だし)」とツッコミたくなる。「ダサピンク」でググって、って誰も教えてあげなかったのかい????国民民主党は女性の支持者が少なめなので、今回はそちらにウィングを広げるべく、女性支援策をしっかり押し出していこう!という意欲は感じるのだが、センスが無さすぎて辛い。
円安と「女性の貧困」のこと
立憲民主党と公明党が選挙協力に留まらず、新しい政党として一つになったことには驚かされた。「右か左か」ではなく、「中道」という大きなまとまりを目指すという考え方自体は正しいと思うものの、それは一朝一夕で整うものではないし、長年、自民党と二人三脚でやってきた公明党への世間の不信感は根深いようだ。また、つい最近まで与党だった公明党が一緒ということもあって、安保法制や原発を巡っては「玉虫色」の言及にせざるを得ないという「大人の事情」は察するに余りあるが、福島第一原発の事故後に初めて原発を再稼働した時の首相だった野田佳彦が立民の代表である今、そこが曖昧になると「応援できない」と感じる人も出て当然というものだろう。
枝野幸男が立憲民主党を立ち上げた時のような、新党結成時の盛り上がりに欠けるスタートになってしまっているが、それに倦むことなく、今後何年もかけてでも着実に支持を広げていくしかなさそうだ。とりあえず、立民系の人たちは選挙前だけ突然駅前に現れるのではなく、もっと普段から辻立ちとかした方がいいと思うよ。誰も聞いてなかったり、なんなら迷惑扱いされたりもするし、心が折れそうになることもあるだろうけど。
ちなみに、個人的な一番の関心事は「円安対策」である。これは、私が語学クラスタでドイツ好きなために、このまま円安が続く(進む)と訪欧はおろか、洋書の購入もままならなくなるという、ある意味では「贅沢」な理由もあるが、何よりも生活費の高騰がキツい。
日本における生活は食料から何から輸入に依存している部分がかなりある。iPhoneひとつとっても、Appleは値段を変えていないというのに、円安のせいでどんどん値上がりが進む。数年おきに買い替えないと、仕事や日常生活で困難が生じるデバイスがこの値段ではやりきれない。2021年に買い替えたばかりのPCのストレージが足りなくなって先日買い替えたばかりなので、本当にお金がどんどん消えていく。
日々の食べ物にしても、別に高級食材を求めているわけではなく、近所のパン屋(個人商店)で「月に2回くらい350円のバゲットを買うことに躊躇しなくていい」程度でいいのだが、それさえもなかなか厳しい。スーパーの118円の食パンでも生きていけるが、たまに良い食パンを食べると「食パンにこんな感動があるとはっっ!!!」となるよね…。通りがかりの富豪が気まぐれに5億円くれないかな~。あぁ、円だと目減りするから、5億ユーロがいいな!
通りがかりの富豪云々は、まぁ、置いておくとして、真面目な話、円安は生活に直結する問題なので、消費減税と同じくらいの熱量で議論されてもいいと思うのだが、どうもそこまで争点にならないようで…。インバウンド効果で潤う業界も限られているし、多少潤ったところで円安と物価高に追いつけるほどの効果があるとは思えない。海外からの観光客らしき人による「日本はこんなに安くてこんなにクオリティが高い」系のショート動画も目に付くようになったが、まだ日本が経済大国だった頃にSNSがあったら日本人が海外で同じような動画を撮って投稿していたんだろうな…とすっかり立場が逆転したことを実感する。そして、海外の人にとって「安くて買いやすい」ものは、美味しい食べ物や繊細な工芸品だけではない。
「女性の身体の資源化」は世界的にも進んでいるが、円安は日本を「安く性が買える国」にしている。さらに、日本においては、性売買は「法律上は禁止されている」ものの、実質的には買春者は非犯罪化されている状態だ。これを買春男たちが見逃すとは思えないし、「女性を男に売ることで儲けたい女衒」も見逃さない。女性たちは貧困に追い込まれ、自信を奪われ、選択肢を奪われて、性売買に取り込まれていくことになる。それを阻止するためにも、円安をこれ以上加速させてはいけないだろう。
「女性を買う」のは海外からの観光客に限らない。むしろ、日本の男性たちこそが買春客の大多数だというのは、その通りだ。買春という形をとった「性暴力」を外国人男性とだけ結びつける言説に乗るつもりはない。しかし、わざわざ買春目的で来日する外国人が増える可能性についても無視はできない。そして、「日本の女」を安く買い叩こうと思うような男性が、街ゆく日本人女性たち全般をどういう目で見るか、どんな扱いをするか、想像に難くない。
以前にも書いたが、「性が買える」社会というのは、「売っている女性」だけでなく、全ての女性が潜在的に「購入可能な性的資源」化されるという効果を生むものだ。現に、日本人男性たちの多くは、「性が買える」ことを当然だと思っているし、なんなら「性を買えること」が権利だとさえ思っている。そこに、「アジア人蔑視」や「経済的劣等国への見下し」も加わるのが、買春観光者だとは言えまいか。それを女性が警戒することはただの「外国人差別」と非難されるべきだけのことだろうか。
代理母や卵子提供についても同じような警戒は必要だろう。代理母の問題についても既にこのニュースレターでも書いてきたが、これも「女性の貧困」と切り離せない、女性搾取の一形態だ。代理母出産によって、以前であれば不可能であった「我が子を持つこと」が可能になるケースもあることで、美談として消費されやすいし、リプロダクティブ・ライツの話と捉えられてしまうことも多いが、大富豪が代理母を引き受けた例というのは聞いたことがない。逆に大富豪が「安全な出産方法」として代理母を利用した話はあるが。そして、代理母出産はもう何十年も前から国境を越えたものになっており、裕福な国の裕福な「親」たちによって、相対的に貧しい国の「お金が必要な女性たち」が搾取されている。このグローバルなビジネスに、日本は代理母供給国として組み入れられていくのではないか。
「強要」と「自己決定」の境界の脆さ
性売買にしても代理母にしても、「本人の同意」さえあれば自己決定であり他人が口を挟むべきではないのだ、という主張がある。それは一見すると、「その通り」に思えるかもしれない。しかし、私たちは意外に「自分が何を望んでいるのか」「自分が本当にしたいことはなんなのか」わからないものだ。誰かの言葉に影響され、誰かの意見を自分の意見と混同し、無意識に自分を騙していたりする。性売買も代理母も、女性の身体を資源化することで、自分の身体を危険に晒すことなく金儲けができる人たちがいる。彼らは女性たちを言葉巧みに説得するだろう。女性たちは、多くの場合、まだ子どもの頃から「女性らしく」あれと育てられる。優しく、共感力をもち、他人のために尽くすようなことを奨励される。それと同時に、一人で決断して一人で生きることは感心されない。
だからこそ、「自分で決めた」と感じられることに誘導されがちになるのだろう。女衒や代理出産エージェントにとって、こんなに都合のいいことはない。
そもそも「同意」がどんな状況下でのものなのか、それを「同意」と呼んでいいのか、ということも重要である。わかりやすく極端な具体例を出すなら、「殺すと脅されて性行為に応じることに同意する」という場合、これは「同意」だろうか?ここまでわかりやすくも極端でもないだろうが、性売買や代理母への「同意」には、多かれ少なかれ、それを「同意」と呼ぶべきではない状況というものが関係しているのではないか、と私は疑っている。
AV強要問題でもそうした状況が問題になっていた。当時、「AV強要問題はけしからん!」と息巻いていたのに、「女性が性を売る権利は性の自己決定権」などと言っている人たちがいるのが謎である。彼らは、一体、何を見聞きしていたんだろうか。はっきり言えば、性暴力や女性差別、性搾取のことなど自分の頭ではまともに考えずに、なんとなく「正しいっぽい」方に乗っていただけなんだろうと思う。
まぁ、どうせ、「強要と自己決定の違いもわからない似非フェミw」とか言われるんだろうけど、男性たちは、女性に比べて、性や生殖に関連して「強要と自己決定の境目がズラされる可能性」が極めて低い。まずは、その辺りからよく考えてみることをおすすめしたい。
「強要」というと言葉が少し過剰に聞こえるかもしれないが、「子を産むべし」という圧力があるからこそ子を産んだ女性は過去にもいただろうし、今も全くいないとは思えない。夫や彼氏の「機嫌が悪くなるから」と気乗りしない性行為に応じたことがある女性も少なくないだろう。それは、本当の意味での合意でも自己決定でもない。
そういう経験を身近に見たり、自身で経験したりしたことが一切ない、という女性はほとんどいないと言って良いだろう。女性側が同意しているように見えること、女性が自ら選んだように見えることであっても、それが「強要」と地続きなことも多いのだ。しかも、性や生殖にまつわることは、身体に記憶を残すこともあって、その後の人生にも影響を与えやすいのだ。心と体は別物のようでいて、実際には完全には切り離せない。
だからこそ、「性を売るか売らないは私が決める」と性売買をあたかも女性の問題であるかのようにするのではなく、社会の側、買う男性の側の問題としてアプローチして、性売買そのものを無くしていく必要がある。「性は買ってはいけない」「性は買えない」「性売買は暴力である」と社会が認識すれば、「売ること」を「自己決定」する必要は限りなくゼロにすることができる。そして、繰り返しになるが、「売ること」を選択させられる女性たちに必要なのは、罰則ではなく、支援だ。性売買に関わらずとも生活費を稼ぐことができるように就業支援も大事だし、まずは心身の健康を取り戻すためのケアが必要な場合もあるだろう。買春者処罰だけでなく、被買春者女性への支援もセットで進めるのでなければ、彼女たちの行き場を狭め、かえって性売買の世界に閉じ込める結果にもなりかねない。
選挙後の国会での議論が、買春者処罰一辺倒にならないように、そして「性売買の地下化」と「当事者女性をさらに危険に晒す可能性」を持ち出すことで買春者処罰そのものを潰そうとしている勢力に議論の主導権を握られないように、注視していくことが重要だ。
と、書き連ねていたところ、高市の「円安ホクホク」発言がかなり批判されているらしいことが観測された。「よし、そこを争点にしよう!」と私などは思うのだが、どうなることやら。
消費減税は、全ての党が「やる」と言っているので、争点にならなくなった(実際にはやる気がない政党もあるけど)。そうなると、左派は「改憲阻止・戦争反対」とか「差別に反対」を掲げることになるが、多分、一般大衆には「あーまたいつものあれね、はいはい」と思われてしまう。それが重要な問題であることも生活に直結していることも分かるが、それで勝てるならもうとっくに勝てている。勝ってほしいからこそ、左派はもっと経済の話をしていくべきなんだと思う。
なお、フォロイーさんがシェアしてくれた日経の記事が珍しく全文無料公開されていて、しかも高市発言を全部引用してあって参考になった。日経の記事には有識者コメントもついているのだが、「国と輸出企業が重要であって、消費者や輸入企業は二の次」という中北浩爾さんのコメントが短くて的確なのではないか、と。しかし、私は経済のことはあまりわかっていないので、積読になっている経済学の本をそろそろ読むかなぁ~。
今回のホルガ村カエル通信は以上です。
あまりフェミフェミしてない話題ですが、でも、「女性の貧困」の解消は政治課題だし、円安は「女性の貧困」を加速すると思っているので、結局、これもフェミニズムの話と言えなくもないかな、と思ったりします。
泣いても笑っても投票日は来てしまうので、どこに入れるのが一番効果的かをよくよく吟味していきたいです。はぁ~、本当はうまい飯のことだけ考えていたいくらいなのですが、うまい飯のためにも円安はなんとかしてほしいです。
1月はニュースレターが出せなかったので、今月はもう一回くらいは何か書けるといいなぁと思っています。
また性売買の問題については、昨年末からラブピースクラブで、元当事者の柊佐和さんによるコラムの連載が始まっているので、そちらも多くの人に読んでもらいたいと思います。
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