結婚の条件

女性が「下方婚」しないことへの不満を述べる男が見ようとしない不都合な真実。一般的に言って、女性にとって"男性との結婚"には「お金に代えられない魅力」がないのである。
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2021.05.07
誰でも

 私のツイッターのフォロワーさんには、非婚女性がおそらく多いはず。韓国のラディフェミの運動に感銘を受けて…というひともいれば、もともと結婚に関心がなかったり、日本の婚姻制度の「不備」のためだったり、理由には多少の幅があると思うが、「未婚」ではなく「非婚」と表現したのは、「まだ結婚してない」のではなく、「結婚してない・結婚をしない」のだということを表わすにはそちらの方が適切だと思ったからだ。

 意識的に「非婚」を選んでいるひとからしたら、そもそも「結婚の条件」というテーマがくだらないと見えるだろうが、先日、Twitterでこの手の話題に触れたら思ったよりも反応があったので、もう少し考察してみようと考えたわけである。
女性が自分よりかなり収入が少ない男性と結婚したがらない理由が、なぜ、非モテ自認男性には理解できないのか?
(なお、婚活という単語が定着したのは20年くらい前で「結婚活動を始めましょう!」みたいな記事を見つけた友人が「これ、そのうち結活とか略されるんですかね?」と言うので「婚活の方が語呂がいいから、そっちになると思う」と返したんだが、ここまで広がるとは…)

女性が下方婚を望まない現実的な理由

 非モテ自認男性界隈では「女性が下方婚しないことへの不満」は定期的に繰り返される人気テーマな気がする。長らく固定的であった(現在もある程度は固定的だろうと思うが)ジェンダーロールとして、「男性の方が稼ぐべき」「家族を養ってこそ一人前の男」「妻より稼げない男は情けない」みたいなものがあることは事実といって差し支えないだろうと思う。「男はツラいよ」系愚痴の中にも「残業が当たり前」「家族のために身を粉にして働いている」といったものはよく見られる。女性を賃労働のメインの戦力から勝手に排除して女性の経済的自立を奪って男性の稼ぎに依存させるようにしておいて何を言ってんだ?と思うが、もう20年以上日本は経済的に落ち目すぎて、かつてと違って男だというだけでは稼げなくなっているわけだ。

 かつては、男であれば就職をすれば給料は順調にあがり、いわゆる適齢期になれば、親戚やら会社に営業にくる保険会社の営業さんやらが「お見合い」をセッティングしてくれたりで、とくにモテるタイプではなくても、職場に「出会い」がなくても、積極的に出会いを求めて行動しなくても、多くの男性が結婚していったのではないかと思う。お見合いの場合は、セッティングする側が勝手に「釣り合いが取れる」と見なす収入や学歴などの条件で事前選考しているので、ほとんどの場合が「男性の方が収入が多い」か「男性のみが賃労働をしている」パターンだったであろうことは想像に難くない。

 現在の婚活市場がどんなかんじなのか、婚活をしたことがないので詳しくは知らないが、わざわざ「結婚」を目的にする場合、そこにはおそらく収入という条件は入ってくるのだろう。また、「子どもがほしい」という理由で婚活して結婚した知人がいるのだが、彼女の場合は、子どもがほしい人が条件に入っていたし、自分が出産や育児で働けなくなっても大丈夫な収入が相手にあることも条件だっただろう。
 結婚と出産がワンセットで語られがちな社会で、結婚をしようというとき、そこに「子どもができたら」の試算が加わるのは自然なことだろう。特に、妊娠と出産はどう頑張っても女性がやるしかないので、男性が「育児に積極的」であろうとなかろうと、身体の変化と胎内で子どもを育てることは誰にも代わることができない。生理に個人差があるように、妊娠・出産にも個人差があるし、そうなったとき自分の場合はどんな状態になるのか、を事前に知ることはできないのだから、軽く見積もってしまうよりは「最悪の事態」で想定して準備をする方が正しいと私は思う。

 以上のことから、「自分より収入がかなり少ない男性と結婚してもいいと答える女性が少ない」ことへの1つの回答として妊娠・出産という要素は無視できない。同時に、家事・育児の分担というのも大きな問題だと思う。

結婚の内実と「結婚」の社会的意味

 収入が同じであった場合で考えてみると、家事(以後「育児」も含むものとして読んで)は折半するのが平等なようだが、収入が同じであっても「労働時間」や体力的負担が同じかどうかはわからない。世の中の仕事というのは、肉体労働を伴う体力的に負担が大きいものの方が低賃金である場合も少なくない。拘束時間にしても、時給1000円と時給1500円では同じ15万を稼ぐのに必要な労働時間が大きく異なる。
 そのため、収入が同じ夫婦の場合、(一般的に)非正規雇用率が高く、基本賃金が低く抑えられている仕事が多い女性の方が、賃労働の時間的・体力的負担が大きい可能性も高い。その場合、家事を折半するだけで平等だろうか?また、実際のところ、給料が同じくらいでも女性の方が家事労働を圧倒的に多く行っているのではないか?
 つまり、この夫婦の結婚の内実は、夫からすれば「ダブルインカムになった上に家事をしてくれる妻がいる」状態で、妻からすれば「ダブルインカムになったものの家事の負担が増える」状態になる。そりゃあ、男性は結婚した方がメリットが大きいだろうが、女性はどうだろうか?

 結婚はお金じゃない!のはその通りだが、それでは非モテ自認男性たちには、お金じゃない部分で具体的にアピールポイントがあるのだろうか、と思って緩く募集しているが、全然集まらない。お金じゃない!というのは「お金はどうでもよい」ではなくて、「お金については不問に出来るくらい他に魅力がある」ということだと思うのだが、彼らは自分の「お金では買えない魅力」さえアピールできないままで「女が下方婚すれば自分みたいな非モテも結婚できる」と思っているようで救いがたい馬鹿なのだなと思う。

 そもそも「結婚」の持つ社会的な意味が男性と女性で異なるのだ。選択的夫婦別姓への反発などを見ていても思うが、一般的に言って男性にとっては「結婚」は女性という資産の所有を意味するし、社会においては「養う家族がある」=一人前として、なんなら昇給の理由にもなる。一方の女性にとっては「結婚」はひとりの男性に所有される資産になることであり、「いざとなったら専業主婦になればいいじゃない」と仕事を減らされることさえあるのだ。婚活界隈や一部女性の間で「結婚していること」や「夫の職業や学歴」をステータスと見なすこともあるのは知っているが、それはあくまでその界隈の女性同士の間でのことで、社会は結婚した女のことは「ある特定の男の資産」と見なし、結婚していない女のことは「今後、誰か(男)の資産となるもの」(なんなら自分の資産候補)と見なしている。

意識を変えるべきなのは誰なのか

 自分で稼いで食べていけるなら、わざわざ資産になりたい女性が減っていくのは自然なことだろう。結婚の内実についても、ネットの普及で以前以上に色んなサンプルが目に入るようになってきた。結婚式や“幸せな家庭”のキラキラしたイメージでどんなにキレイにコーティングしようと、結婚の内実が女性にとっては負担の増加であることは隠せなくなってしまった。
 男性にとっては「家族を養う一人前の男」として認められる&家事をしてくれる女性が所有できる結婚は今でも充分に魅力的だろうし、それが手にできないことへの不満も大きいのだろう。しかし、結婚は、実は、これまでも男性が思っているほど(男性が「女性は結婚に憧れている」と思っているほど)は女性にとって魅力的なものだったことなどないのではないか?「女性であれば結婚するもの、子どもを産むもの」という社会的な圧力が当たり前すぎて、結婚しないという選択肢が見えなくされていただけなのではないか? 
 男だって、もし、養う必要がなく、しかし、なんだかんだと身の回りの世話をして性処理もしてくれる女性がいれば、結婚よりもその方が好都合なのではないだろうか?結婚することで自分が何を得られると期待しているのか、そして、自分自身が与えることができるものは、相手の女性にとって「対価」として魅力のあるものだろうか?と、ちょっと考えてみるといいと思うんだが。「お金では買えない魅力」って難しいんだよ。

 と、色々考えてみると、収入とか家事の分担っていうわかりやすい条件を設定してくれている女性の方がまだ優しいンじゃないかな?って思うんだよね。非モテ界隈では「ワガママ」扱いされてるっぽいけども。
 いずれにしても、家事スキルは身に着けると自分が快適に過ごせるようになるし、そこから「女性の仕事」とされている事への理解も深まるから、非モテ脱出のためにも急がば回れ。そして、女性は残念ながら「頑張った僕」のための景品ではないので、頑張っても報われないこともある。それでも、家事スキルがあれば、美味しいご飯を食べて充実した「おうち時間」を過ごせるようになるから、その方が幸せを感じられると思うよ。

***

今回のホルガ村カエル通信は以上です。
 それにしても、そもそも「下方婚」とか「上方婚」とかいう言葉もどうなんだろ?って思うんですけどね。この単語、もともとは「階級」の移動の意味だったんじゃないかと思うんですが、「収入の多寡」+「学歴(出身大学の知名度)」みたいな感じに使われてますよね。名目上、日本社会には「階級」はないし、イギリスやヨーロッパにおけるような「貴族」云々って感覚は比較的薄いようにも思うので、言葉の意味が変わっていくのも仕方がないかなと思ったり。収入だけはめちゃくちゃあるけど知的好奇心がゼロみたいなひととの結婚は果たして「上方婚」と呼べるのか?とか、ついつい考えてしまいます。
 みなさんの「結婚の条件」や「結婚しない理由」もよかったら聞かせてくださいね。

では、また次回配信でお会いしましょう。

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