ホルガ村へようこそ

【特集:ミサンドリー】このニュースレターのタイトル「ホルガ村カエル通信」の由来と最近ホラー映画を観るようになった話などを書いています。
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2021.03.05
誰でも

3月8日は「国際女性デー」!ホルガ村カエル通信では3月いっぱいはそれを記念して【ミサンドリー特集】をお届けしています。今回は特集第2回ですが、不定期配信ネタ「映画関係」です。

ホルガ村

 もうお気付きの方も多いのではないかと思うが、ホルガ村とはアリ・アスター監督のホラー映画『ミッドサマー』(2020年3月日本公開)の主な舞台となるスウェーデンの架空の村の名前である。ミッドサマーは「夏至」のことで、このホルガ村で90年に一度行われる夏至の奇祭を、主人公を含むアメリカの若者たちが訪ねていって…まぁえらい目に遭う物語なわけだが、この物語の結末は一部の女性たちからはある種の「癒し」として受け止められた。「ホルガ村に住みたい」とまで言っているひともいたほどである。
 もちろん、『ミッドサマー』が全然ダメだった、合わなかった、という女性もいるので、万人に勧められるタイプの映画ではない。また、内容はOKそうでも、音響がキツかったというひともいるし、2018年の『ハロウィン』などのような明確にフェミニズム的なメッセージを含むホラー映画でもない。

 ホルガ村において、女性はある意味では「産む性」としての使命を背負わされているし、また、障碍者を神聖視するタイプの差別もあり、決して理想郷ではない。物語の結末も「ハッピーエンド」とは言えないものだ。しかし、それにもかかわらず、ある種の癒しをもたらすものだったのは事実で、私もとりあえず熊と花と炎をHNに追加したわけである。

 ニュースレターを始めることになったときに、なんとなく「○○カエル通信」にしようと思って、「○○」のところに何を入れるべきかを考えていた。フェミニズム周辺のこと、ミサンドリー肯定、映画や音楽のこと…自分のそういった雑多な話題を書いていくよ〜というのがうまく伝わるタイトルがないものか、と机に座って考えていたら、D氏が「ホルガ村カエル通信」とボソっと言った。ホルガ村なら、わかるひとには一発で映画好きなのが伝わるし、あの結末を知るひとにはミサンドリーぎみなのも伝わるであろう。また、「通信」が「村」から届くというのは、レトロな感じで悪くない。その上、ホルガ村という響きと私のカエルのルックスはなかなかにマッチするではないか!はい、採用!という感じでほとんど勢いで決まった。

 というわけで、みんな掌を前に向けて顔の横でひらひらさせながらメールを受信してください。

ホラー映画の可能性

 と、ホラー映画由来の名前を自分のニュースレターにつけるくらなのだから、ホラー映画が好きなんだな、と思われるだろうが、実は、私はホラーはあまり得意ではない。どちらかと言えば「ホラーは嫌い」と言ってきた。いや、だって、怖いじゃん。特に「わっ」と脅かすタイプ(ジャンプスケア)と怨霊ものが大嫌いで、次に人形が怖い。でも、ゾンビはイケる!と思ってきたのだが、D氏がホラー好き人間なことも手伝って、最近のホラー映画は「過去のホラー映画の歴史において描かれてきた女性像」を破壊するようなものが増えているらしいという情報に触れることとなった。

 コロナ自粛生活が始まる以前は、私の趣味のひとつは「映画館で映画を観る」ことだった。しかし、ホラー映画を映画館で観ようとはあまり思えず、ホラー映画に限ってはD氏にひとりで行ってもらうようにしていた。絶対に観にいかないこと間違いなしなので、完全ネタバレで話を聞いたことも何度かある。そうした中で、「今のホラー映画はフェミニズム的にも推せる」ということをD氏以外の、映画好き女性たちからも聞くようになり、それならあんまり怖くないヤツから観てみようか…と2019年頃からホラー映画も観るようになり、ついに公開初日に観にいってしまったのが『ミッドサマー』だったのである。(なお、このことに気付いたのはホルガ村カエル通信スタート後である)

 ホラー映画は怖いけれど、これまでキャーキャー言って逃げ惑う役割をさせられていた女性たちが殺人鬼や怪奇現象に立ち向かっていく物語は、一種のヒーローもの映画とも言える。『ハッピー・デス・デイ!』ではチャラい女の子が自己犠牲も伴いながらクソ男との関係を清算して成長していくし、『ハロウィン』や『ザ・ボーイ〜人形少年の館〜』では、主人公がトラウマを乗り越えていく様子が描かれる。ドラマ『ラヴクラフトカントリー』でも主人公のパートナーであるレティや伯母のヒッポライタも好奇心旺盛にガンガン未知の世界に突き進み、どちらかと言うと及び腰の男たちに発破をかける。みんな、「ぎゃー!」と言いながらも、闘うし助けるべきひとを助ける。彼女たちは、薄着で肌を晒しながら逃げ惑う様子を観賞される客体としてではなく、未知のものに立ち向かう主体として描かれている。
 考えてみると、過去のホラー映画ではなぜ男性ばかりが恐怖に立ち向かう者として描かれていたのか謎だ。現実社会でも「長いものには巻かれろ」と自分より強いものにはペコペコして何も言えない男の方が圧倒的に多いというのに!(が、それはまた別の話)

ぬいぐるみガエルの館

 そんなこんなで比較的ホラー映画を観るようになったところで、友人から『ザ・ボーイ〜人形少年の館〜』という映画を勧めてもらったので観た。住み込みの子守として古いお屋敷に雇われた女性が主人公なのだが、「私たちの息子です」と紹介されたのは椅子に座っている人形…。この人形を「起こして」「着替えさせて」「ご飯を食べさせて」「勉強をみてやって」「音楽を聴かせてやって」「寝かしつけて」…というのが子守の内容。
 やべー!だいぶ狂ってんな!と思って見始めたものの、よく考えてみたら、人形じゃないだけで私も似たようなことやってるのでだいぶヤバい。

 カエルのぬいぐるみたちを起こし、冬はセーターを着せてやり、専用の椅子に座らせて一日が始まり、出勤する際は交替で一匹ずつ職場に連れて行くし、緑のカエル(オジサン)とピンクのカエル(ポチ)にはそれぞれの性格があるので、ポチは仕事に行かない日は11時まで寝てる(11時に起こす)し、オジサンはできるだけ早起きしたい性格。映画やドラマを観るときは画面を見易い場所に移動させてやるし、外出時にはマフラーや手袋を着けてやり、夜には(セーターを脱がせて)専用の布団に寝かしつける。だいぶヤバい。

 映画の方は、予想外の展開で非常に面白かったのだが、まさかの自分の行動様式がややホラーだったことには驚いた。やはりホルガ村カエル通信という名前は運命だったのかもしれない。

To be continued...

***

 今回のホルガ村カエル通信は以上です。
 どこがミサンドリー特集なんじゃ?と思った方もいるかと思いますが、さすがにエンタメ業界でもミサンドリーがテーマとまで言える作品はなかなかないので少し大目に見て下さい。アリ・アスターはそこはかとなくミサンドリー味あるし…。なお、『ミッドサマー』を映画館で見て激怒している男がいたらしいという噂は聞きました。
 よろしければ、皆さんの好きなホラー映画やお勧めのホラー映画もぜひ教えてください。あ、もちろんホラーじゃなくてもいいですよ。#ホルガ村カエル通信

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