カエルのおすすめ:『エクソシストを堕とせない』

今回はカワイイ絵柄でちょいラブコメというオブラートに包んでフェミニズムど真ん中の話をぶち込んでくるバトルアクション漫画の快作(少年ジャンプ+で連載中)をおすすめ。
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2024.10.21
誰でも

 SNSが存在しなかったら知り得なかったなぁと思うものと出会ってしまうと、なんだかんだでSNSやってて良かったな~などと思ってしまうネット廃人なのだが、意外とあまりこの漫画の話をしている人をタイムラインで見かけない気がする&この漫画のフェミニズム的なメッセージをキャッチし損ねているらしき人が「この漫画がフェミやポリコレ勢に見つかったら大変(漫画が批判される)!」的な感想を述べているらしいという噂を聞きつけて、これは是非とも「フェミやポリコレ勢」に見つけてもらわねば…!と、一回サラッと通し読みしただけではあるが、原作:有馬あるま、画:フカヤマますく『エクソシストを堕とせない』をおすすめすることに決定した。

バトル漫画でフェミニズム

 私がこの漫画を読んでみようと思ったのは、すでに述べている通り、SNSで相互さんが感想をつぶやいていたからだ。ジャンプ+のアプリで無料で読めるということで(『呪術廻戦』のキャッチアップのためにアプリをダウンロードしてあったので)、さっそく読み始めたところ、数日間で最新話まで一気読みしてしまった。ちょっと検索してもらえれば絵柄はわかると思うのだが、かなりカワイイ感じだ。ちょっと可愛らし過ぎて、普段の私であればあまり読もうとしないタイプとも言える。鼻を点で描くタイプの(要するに比較的幼い表情の)キャラがあまり得意ではないもので…。
 それでも、整ったきれいなイラストで(あ、ただしグロいところはかなりグロいのでダメな人は注意が必要)デッサンも狂ってないし(乳はデカ過ぎるけどそれは「あえて」そうなってるようにも見える)、何よりもエクソシストと悪魔のバトル漫画でいきなり「性的同意」の話をぶち込んでくるというアイディアにぶったまげた。しかも、それが「色欲」の魔王との闘いだからこそ必要な流れになっており、「性的同意」の話をするためだけの場面になってしまっていないところがスゴい。もちろん原作段階できちんと計算されていることなのは間違いがないのだが、読む方は「フェミニズム漫画を読むぞ」と思わずに、自然な流れでフェミニズム的な考え方に、登場人物に共感する形で触れられるようになっているのだ。
 性的同意から反出生主義まで、昨今のSNSで見かける話題が網羅(?)されている。よく考えたな…と思うが、聖書の言葉を引用し、悪魔と闘いながら、「性的な眼差し」の暴力性であったり、虐待(性的なものを含む)の記憶がその後の人生に与える影響であったり、性的主体性や「自由選択」の罠であったりが、物語のノイズにならない形で描き込まれている。私のように文字しか書けない人間は1万字を費やして1つのテーマについて書くしかないし、それでも書き切れないことが山ほどあり、1万字書いても誤読されるという運命にあるわけだが、私の知る範囲で「フェミニズムをメインテーマに据えていないように見える漫画」でここまで多くの問題を盛り込んでいる作品は他にないし、漫画という表現だからこそ出来ることをやっていてちょっと感動する。

 フェミニズムがメインテーマの漫画であれば、瀧波ユカリさんの『わたしたちは無痛恋愛がしたい』などを挙げることができるが、『無痛恋愛』はフェミニズム漫画であることをわかって読む漫画であって、もともと意識している人の方に届きやすい。『エクソシスト~』は、かわいいバトル漫画で巨乳の女性キャラも出てくるし、尻や乳がほぼ丸見え衣装の魔女たちなんかもいるので、「エロかわ~」と消費している層もいそう(だからこそ、「フェミは怒る」と勘違いする人がいるんだと思う)。しかし、そういう人たちが「強姦で悦ぶのは犯す側だけだ」といった台詞を目にする機会を持つことも大事だろう。

フィクションと現実の区別

 主人公はひとりの少年エクソシスト(神父くん)で、言ってしまえば「天才」なのでめちゃくちゃ強い。サタンと戦うために選ばれし者として、その使命に生きており、教会の命により、とある少女(イムリ)を警護することになる(で、その少女に初めての恋をする)。次々と現れる魔王(七つの大罪を象徴する)と、時には他のエクソシストと共闘しつつ、戦うのだが、仲間たちもみんな癖がある。顔を絶対に見せない少女は、容姿コンプレックスを持つ少女たちを表しているだろうし、SNSで“アホかわインフルエンサー“として人気の男子は「男らしさ」の呪縛から自由な若者世代を表しているように見える。キャラクターの名前も色々と凝っているので、西洋文学史や思想史が好きな人にはその辺りも刺さりそう。

 先のサタンとの闘いで多くの成人エクソシストが死んでしまったという設定があり、現在活動しているエクソシストはほとんど「子ども」である。大人が子どもを頼みにすることの問題やそれでも子どもに託さざるを得ない現実というのは、単なるフィクションの話ではないだろう。貧困や児童労働、性搾取といった問題にも、無理やりではなく言及しているのだが、まぁ、考えてみると「七つの大罪」って割と人間の根源的な欲求に結びついてることだったりもするから、現実の問題とリンクさせて無理なく描けるのかも…と改めて「目の付け所の鋭さに参りました!」と思う。

 とはいえ、ツッコミどころはないわけではない。舞台がイタリアから日本に移るのだが、神父くんたちはいつから日本語がそんなに堪能に?とか、神父くんは日本の台所で日本の食材でいきなりそれは作れないのでは?とか(小麦粉ひとつとっても色々違うから)、そもそもイムリが一人で画家としてイタリアに住んでた(しかも収入は日本の上位3%に入る)という設定とか…。でも、そこはフィクションだし、この作品のリアリティのラインは「その点はリアルじゃなくてもOK」なのだと納得できるレベルなので、あまり野暮なことは言わないでおこう。

「表現」の持つ力

 最後に、先ほど引用した「強姦で悦ぶのは犯す側だけだ」という台詞について補足しておきたい。この台詞は被害者である神父くんのもので、男性側から発せられることによって、男性の性被害にも光を当てるものになっているだけでなく、「悦ぶのは」と言っているところに配慮を感じる。強姦であっても被害者の身体が性的に反応してしまうことがゼロではないということは、こうした問題に関心を持っている人なら知っていることだろう。そして、その経験は被害者を非常に苦しめるということも。ここで、「感じるのは」「気持ちがいいのは」と言ってしまうと、そうした「意に反して身体が反応してしまった被害者」の被害者性を軽視しているようにも取れてしまう。仮に性的快楽を身体が感じていたとしても、それは決して「悦び」ではないということは間違いない。この言葉のチョイスに意志とセンスを感じた。

 それ以外の箇所を読んでいても、「その表現はちょっと…」みたいなものが(とりあえず一回サラッと読んだ限りでは)なく、むしろ「なるほど、そう表現したか!」というところがあるし、あまり明示的に語らせないで絵で表現している部分はフェミニズム的な言説にあまり共感を持っていない人はスルーしてしまうかもしれない(要するに「なんだ、これ、フェミかよ!」と読むのをやめてしまわない)匙加減になっているように思う。まだフェミニズムに関心がなかったり、むしろ反感を覚えているような人たちに、フェミニズム言説に引っ掛かりを覚えてもらった方が良いこともあるが、現時点ではなんとなくスルーして読んでいてもいつかどこかでフェミニズムと「出会った」時に、「そういうことか!」と点と点が繋がるハッピーな経験ができたら、それはそれで良いことだろうと思う。読まれなければ「点が繋がる」ことも絶対にないからねぇ。

 ということで、みんな、いますぐ「ジャンプ+」をダウンロードだ!今なら(?)初回は全話無料で読めるぞ!

***

 今回のホルガ村カエル通信は以上です。
 本当に色々盛りだくさんでもっと書きたいことがいっぱいあるのですが、どうしても割と細かいポイントについて言及することになってしまうので、ネタバレするし説明が長くなるし…ということで、短くまとめました。
 原作の有馬あるま、作画のフカヤマますく、共に「誰??」なのですが、只者ではない…のと、たぶん女性だろうなぁ~とか思っているところです。
 本文中でも少し書きましたが、巨乳童顔女性キャラが裸同然の格好をしていたり、バトルシーンでの人体の損傷描写がけっこうグロかったりもするので、苦手な人もいるかもしれませんが、絵がうまいので裸同然でもあまりイヤらしい感じはしないのと、性暴力描写などは「暴力」として描かれていて、「エロ」として楽しめる要素を排除することにも心を配っている感じがあるところに好感が持てます。また、グロ描写も物語上必要だからグロいのであって、単に残酷描写を楽しむようなものではないです。ただ、児童虐待描写とかは場合によってはトリガーになる人もいるかもしれないので、ダメそうだったら無理をしない方がいいかとは思います。

 突如、夏日から秋というか初冬に突入した感じで何を着たらいいのか迷った揚げ句、七分袖のTシャツ一枚で外に出たら寒かったし、家の中でも寒いじゃねーか!と言いつつ面倒くさいのでそのままでこの原稿を書いています。面倒くさがって風邪をひいたりしないようにしたいものですね。

 では、また次回の配信でお会いしましょう~!

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