たわわに実った男の妄想

「胸が大きい女子高校生に嫉妬していることを指摘されて悔しいザマス!キィィィィィ!!!!」とか言ってあげると喜ばれるのかな?
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2022.04.29
誰でも

モテないブスBBAは貧乳

 Twitterでアンチフェミっぽいアカウントによって「更年期のしわわ」というリストに入れられた。『月曜日のたわわ』という胸の大きな女子高校生(とその子をどぎまぎしながらも満員電車でガードするサラリーマン)のギャグ漫画だそうで、私は個人的には趣味じゃないし、広告表現としては色々と問題があろうが、特に漫画自体について言及していない。基本的な考え方としては、成人が「未成年を性的対象としてまなざす」ことについては、建前であっても「無し」と社会は言っていくべきと思うので、過去に書いた記事で関連するものを再度シェアしていたせいなのか、誰かの批判ツイートを「いいね」かRTしたせいか、漏れなくリストに加えてもらえたわけである。

 もはや見慣れた光景という感じだが、嫌がらせのためにわざわざリストを作って入れるのだから陰湿というかなんというか…。「胸が大きい高校生に嫉妬していることを指摘されて悔しいザマス!キィィィィィ!!!!」とか言ってあげると喜ばれるのかな?と思うが、残念ながら「毎度毎度ご苦労なことで…」という程度だし、別に胸の大きい女性にも高校生にも嫉妬してないので、どちらかと言えば「ああ、また男が見当違いの"フェミはブスBBA"言説で喜んでるんだな」と呆れている。嫌がらせのようなリストを作ってわざわざリストインしたことを通知してきてくれるのは、アンチフェミに限らない。「フェミニズムの知識のないフェミニスト」とかね。「監視用」とか「注視用」なら非公開にすればいいので、私(俺)はお前のことをこう認識しているぞ!と相手に知らせたいからこそ公開にしているのだろうから、なかなかに「いい性格」してんなぁと感心するのだが、それはまた別の話。

いつか必ず失われる武器

 「女の敵は女」という話にされたくないので、あまり積極的にしていきたい話ではないのだが、胸の大きな女性に嫉妬する女性も若い女性に嫉妬する女性も現実には存在していると思う。「胸の大きな女友達のことを男と同じくエロい目で見ちゃう私!」みたいな謎のアピールで男性に媚びを売るタイプの女性も見たことがあるし、私ごときでさえ、下着のサイズを(男性を含む)大勢がいる前で勝手に大声で言われるという被害にあったことがある。「男性の面前であっても、こうやっておっぱいの話とかしちゃう私って、ほらサバサバしてて男みたいって言われるし、別に他の女性の胸のサイズに嫉妬なんてしてないから自分の胸が小さいこともネタにしちゃうんだよねー!」みたいな、謎のテンションで。しかし、それなら自分のブラジャーのサイズをデカ声で開陳してればよかろう。しかし、彼女のようなタイプはそれは絶対にしない。他の女性の胸をダシに「さばけた私」アピールをするのだ。迷惑なことこの上ない。

 また、数年間働いた職場で、私が一番の若手だったときに、それまではその職場でおそらく一番の若手のひとりだったであろう女性から軽めに嫌がらせを受けていたことがある。その女性は、若い頃にはいわゆる「ちやほや」を享受してきたのだろうと思わせる容姿、ファッションセンスをしていた。私は職場での「ちやほや」など全く求めていない。ただ、政治の話などがまあまあできる人が数名いたので、割と男性たちと会話をすることも多かったし、相手側もそういった話題に乗ってくる女性が珍しかったこともあってか、会話が盛り上がることもあった。その様子が、彼女には「ちやほやされて調子に乗っている」ように見えたらしいし、おそらく私が自分の方が若いからという理由で彼女のことを馬鹿にしていると思っていたのではないかと感じた。
 正直に言えば、そんな風に考えてしまうこと、冴えない男性同僚からの「ちやほや」にさえ価値を感じてしまうようなことを気の毒には思っていた。それが態度に出てしまって、結果的に相手を馬鹿にしているように見えてしまった可能性は否定できないと思う。しかし、相手よりも若いことを勝ち誇ったところで、私よりも若い女性がまた職場には入ってくるわけだし、誰もが歳をとるのだから滑稽でしかない。私と政治談義をして盛り上がっていた男性たちが、私が(相対的に)若い女性だからという理由で私と会話をしたいのであったり、私よりも年輩だからという理由で彼女のことを見下すのであれば、そんな連中はこちらから願い下げだ。そして、「若い女性であること」を武器としてしまった女性は哀しい、と個人的には思う。それは、必ず失われる武器でしかないし、それは使う側の主体的な選択に見えても、実は武器を使われる側である男性に依存した武器でしかないからだ。それが武器として機能するかどうかは、男性の気分次第である。

自意識過剰なのは誰なのか

 「男は胸が大きい女性が好きなものである」「胸の大きな女性の方により性的な魅力を感じるのが正常である」と思っているひとは少なくない気がする。それは「本能的」なものであって、男はそれに抗えないのだ、という内容の発言は珍しくない。そして、それに呼応するように、女性向けの下着は胸を寄せて上げて、上げ底をしてボリュームを盛るような作りのものが多い。取り立てて「大きく見せたいです」と思っていなくても、カップ数に応じて予め上げ底素材が下着の中に仕込まれていたりする。「女性は男性から魅力的だと思われるように胸を大きく見せたいはずだ」という前提になっているのだ。
 近年、女性ユーザの声に応える形で、胸が大きく見えないものやスッキリ見えるもの、無理に締めつけたり押し上げたりせずにホールドするものも増えてきた印象だが、一方で「自然で美しい胸」のために就寝時にはナイトブラを着用しましょう〜みたいな別の流れも加速しているように思う。化粧品関係で「厚塗りよりスッピン美肌」みたいな流れがあるのと似ている。化粧をしてもしなくても、どちらにしても「美しくあれ」という圧力はかけてくる。下着も「胸を盛って美しく」or「胸を盛らずに美しく」の選択が正しいことのように誘導されている感じがある。単に「らくちん」とか「快適」とかを目指すと「女を捨てている」ということにされるのだが、そんな簡単に捨てられるなら便利だったよね、と言いたい。女性たちは、そんなに一律に「美しくある」ことを求めてきただろうか?むしろ「美しくある」ことを、女性に求めてきたのは、男性中心社会の方ではないのか?
 胸の大きさにしても、「胸を大きくしたいと思うべき」と女性に求めてきたのは男性中心主義社会の方で、女性たちの多くは胸の大きさなどを気にしなくて良いことを求めているのではないか。

 私個人の話をするならば、「パイスラ」とか気にせずにバッグを斜め掛けしたいし、不躾な視線を感じずに深いVネックの服も着たい。そして、42歳がこういうことを言ったからと言って、「BBAのパイスラとか誰も見てないw」「自意識過剰、むしろ迷惑w」などと辱められたくない。確かに体感としても、35歳前後の頃と比べると、男性からジロジロと見られることは格段に減ったのだが、それでも「見られるかもしれない」「BBAのくせにわざと胸を強調している痴女とか思う男がいるかもしれない」と、つい思ってしまうくらいに、日本社会の男性(向けコンテンツ周辺)は女性の胸に執着している。BBAを馬鹿にする前に、せめて自分たちが女性の胸に執着している事実くらいは認めてほしいものだ。
 20代半ばまで「対象外」扱いされることが圧倒的に多い人生だったので、私が男性からのジロジロを特に感じて過ごしたのはむしろ35歳前後だ。ジロジロ見てくるのは10代の男子から孫もいそうな爺さんまで、年齢層に偏りはない。単に「視界に入っている」のと「ジロジロ見ている」の違いは、見られている側にははっきり分かる。多くの男性は、自分が経験しないので体感としてそれがわからないから、簡単に自意識過剰だと言うのか。それとも、自分がジロジロ見ている後ろめたさがあるからこそ、女性の自意識過剰だということにしてしまいたいのか。いずれにしても、女性たちが「(自分たち)男性からの性的視線を受ける女性に嫉妬している」と思い込める自信はどこから来るのだろうか?それも普段は「女はイケメン高収入しか男と見なさない」「女は男をATMだと思っている」みたいなことを言っている口で、「俺たちから性的にまなざされない更年期BBA乙w」とか言ってて、どうやって脳内で整合性がとれているのか、全くもって謎である。

「性的に見られる権利」という頓珍漢な発想

 胸の大きな女性向けアパレルメーカーの代表の方が、「未成年を性的に見ること」を一概に否定してはいけないのではないかといった発言をして批判を受けている。こうした話になったときに、必ず出てくる「性的に見られたい女性もいるのだから、そういう女性の権利は守られるべき」という意見にいつも違和感がある。現状、女性が女性であるというだけで、単に通りすがっただけで速効「性的オブジェクト」として「ヤレる/ヤレない」ジャッジをしたり、学校や職場にいるだけの女性を、相手の同意も得ずに「エロい肉塊」として眼差している男性は少なくない。つまり、「女性が性的に見られる」のはどちらかと言えば日常であり、わざわざ「性的に見られる権利」などを訴える必要もないのだ。むしろ、「性的に見られない権利」「普通に同僚(クラスメイト)として接してもらう権利」の方が全く省みられていない。

 「性嫌悪」批判の文脈でもお馴染みという気がするが、「○○しなくていい権利」「○○されない権利」が保証されないところで、「○○する権利」「○○される権利」を訴えるのはものすごく馬鹿げている。ましてや、その対象が未成年者である場合、大人がすべきことは「しない権利」「されない権利」を守ることで、本当の意味で未成年者の心身の自由を保証しなければならない。件の漫画は、制服姿の女子高校生を描いている。制服は多くの場合、校則で着用が求められるものであり、本人が好きで「性的オブジェクト」化されるために着るものではない。にも関わらず、映画・ドラマ・漫画・アニメなど様々なコンテンツにおいて、女子生徒の制服は性的フェティシズムの対象として描かれてきた。また、学校制服を着させられている未熟な年齢の女子に対する性的ファンタジーが、大人向けのコンテンツとしてとても多いのだ。このことの弊害については、炎上した広告への批判とは別に、真面目に考えられるべきだと思う。
 私の通った学校は、くそダサ制服だったことも手伝ってか、私自身は制服着用時に痴漢にあったことはない(露出狂には遭った)が、多くの女性が学校制服姿の時に頻繁に痴漢に遭った経験を語っている。同じ学校でもしつこい痴漢に耐えかねて注意したところ殴られて怪我もするという被害に遭った子もいた。

 「通学電車で痴漢被害に遭う」ことが、女性の人生における通過儀礼のようになっている国が他にあるのだろうか?多くの女性にとって性被害があまりに「当たり前」になっている社会で、女性自身もそれを「性被害」だと認識していないこともあり、私たちは、まだ被害状況の把握さえもきちんとできていない地点にいる。
 以前、友人から性被害に遭いかけた話を笑って聞かされて、私も笑って応じてしまったことがある。当時の私は性暴力に対する認識が甘かったし、笑って話した彼女自身も自分の被害をどのくらい深刻に考えていたのか今となっては知る由もない。

 様々な経験をし、この10年くらいはTwitterなどを通じてこれまでは接点が全くなかった女性たちの被害についても知るようになった。だからこそ、日本社会を変えて次の被害者を生まないようにしていきたいと思っている。巨乳フェチ表現や制服女子生徒フェチ表現を批判することが「胸の大きい女子高校生に嫉妬している」ようにしか見えていない人たちとの断絶に、社会を変えることの途方もない難しさを思うけれど、それでも諦めてしまうのは無責任だと思うので、細々とでも声を繋いでいけたらと思う。

***

 今回のホルガ村カエル通信は以上です。
 また中学生くらいの頃だったか、新聞広告に「○○(表品名)さんのおかげでこんな胸に!ついに彼氏ができました!」みたいな胸を大きくする何かが載っていて、なんじゃこりゃ?と思ったことを覚えています。当時の私はなかなか寸胴だったので、もう少しメリハリのある体形になりたいなぁという気持ちはあったが、「胸が大きくなって彼氏が出来ました!」系の話は本当に意味がわからなかったし、今もわかりません。胸の大きさをパートナーの条件にするような男と付き合って嬉しい?というのが全く理解できないからです。パートナーに何を求めるのかは人それぞれなので、性的なことに特化して選ぶ人もいるのだろうし、双方がそれで納得している分にはいいのでしょうが、もし、私が豊胸をしたとして、途端に言い寄ってくる男がいたら、気持ち悪いなと感じました。そして、徐々に、胸目当てみたいな男から目をつけられるのは大変だな…と思うようになっていました。

 大きくても小さくてもコンプレックスを抱かされ、そこに本人の意志とは無関係に必要以上の意味を見いだされる「女性の胸」というものを持って生きてきたからこそ、広告表現やエンタメにおける女性の胸の扱われ方の問題に敏感にならざるを得ない「更年期」の女性のひとりとして、リアルタイムできちんと批判をしていた女性たちに連帯を表明したいです。

では、また次回のニュースレターでお会いしましょう🐸

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