【再録】ミサンドリー批判する男の滑稽

以前noteにupしていた音声コンテンツ「癒しのミサンドリー」の第2回を書き起こして修正したものを再録しました。ミサンドリーを批判している男の言っていることって変じゃない?って話をしています。
珈音(ケロル・ダンヴァース) 2021.03.19
誰でも

ミサンドリーって理不尽?

 すでに話したようにミサンドリーはミソジニーという原因の結果であって、何の理由もなく男性を嫌悪しているわけではないし、そもそもミソジニーの訳語が「女性嫌悪」や「女ぎらい」でいいのかという問題がありますが、(2月26日配信のホルガ村カエル通信でもリンクを貼っている現代ビジネスのオンラインの江原由美子さんがケイト・マン『ひれふせ、女たち:ミソジニーの論理』を紹介する記事はオススメ!)要するにミサンドリーはアンチミソジニーなんだけど、日本で生活していると誰でも無自覚にミソジニーをある程度は身につけてしまうので、そのミソジニーを女性への加害的行為で発露してくる男という存在に対して、警戒や嫌悪を強めてしまう女性が多いのは当たり前のことですよね。
 あまりに女性差別が普通になってしまっている社会において、自分が女性差別に加担していると意識できる男っていうのは少ないと思います。でも、その気付かずにいられること、それがもう差別する側の属性であるがゆえの鈍感さなんだと思うんですよね。で、「自分は女性差別していない」「フェミニズム?いいんじゃない?俺は応援してるよ」と思っている男は、「男嫌い」と訳されるこのミサンドリーってものを、なんだかものすごく理不尽な悪いものだと思っているっぽい気がするんですよ。でも、アンチフェミでさえ、「自分は正しいフェミニズムには賛同ですよ」とか言ってたりするので、たぶん、日本の(ミサンドリーって言葉を知っている)男の90%以上がミサンドリーはダメだと思ってると思います。
 でもさ、ミソジニーが何を指すのかも理解せずに、その結果であるミサンドリーを理解した気になっている時点でお話にならないですよね。で、さらに残念なことに、「ミサンドリーは自然なことだ」と主張している男の中にも、別の意味でのポンコツはいるので、まぁ、だいたい日本の男の98%くらいはポンコツだと思っていいんじゃないかな?ということは度々言っているのですが。こういうことを言うとね、「98?100%だろ?」と思うひともいると思いますし、まぁ、次々と馬脚をあらわす《親フェミ男》とかを観察しているとそう思うのは仕方がないことと思います。

 で、ミサンドリーっていうものが、仮に、単なる〈男性嫌悪〉、単なる〈男嫌い〉であったとしても、なんで批判されるのかわからない。別にミサンドリストによる連続男性殺傷事件とか起こらないわけじゃないですか。逆のミソジニー男による女性殺傷事件というのは過去にもたくさんあるけれど、ミサンドリーの女性は男と関わるのを避けていくだけですよね。積極的に近づいていって加害行為をするミソジニー男とは全く違うわけですよ。

 男を好きじゃない女が男を避ける

 これが批判される筋合いはないと思うんですよね。
 女性がミサンドリーという言葉を単なる〈男嫌い〉だと勘違いした結果、「自分はミサンドリーになりたくない」とか「私は男性が好きだ」とか言っちゃう思考回路はまぁ理解できますよね。「男性のことが好きです」とか「フェミニズムは男性を批判する思想ではありません」とか「男性にもメリットがあります」とか言い出しちゃう女性がいるのも、私個人はその方法は推奨しないけれども、まぁ、そういうひとがいるのは理解できるんですよ。ただ、私が理解に苦しむのは「ミサンドリーはよくない」っていう男なんですよね。

ミサンドリー批判をする男はなぜ滑稽なのか

 ミサンドリーを正しくアンチミソジニーだと理解していながら、「ミサンドリーはダメだ」と言っているなら、社会的公正さとかどうでもいいって言ってるのと同じクソだし、単なる男嫌いだと思って言ってるのだとしたら、「女が男を嫌いだって言うのはよくないと思います」って話でしょ?馬鹿なんじゃないの?と思いませんか?「男である自分のことを嫌わないでほしい、フェミニズムを勉強している自分は味方なんだから」みたいな意識で言ってるなら、甘えるな!と思います。さらに「男性差別はダメだと思います!」という意味で言っているなら「差別」というのが権力関係や社会構造における上下関係の中で起こるということが理解できない低能だと思うので、いずれにしても、「女性の男嫌い」を批判してる男は、自分がどれだけ滑稽なことを言っているのか、よく考えてみた方がいいと思うんですよね。

 さらには…ペニスフォビアなんて言葉を使い出した男までいて、正直、衝撃的すぎて爆笑してしまったんですけど。むしろ、なんでペニスが好かれてると思ってた?みたいな。ここでも男の無駄ポジティヴが炸裂してるなぁーっというかんじで、ほんとにね、「ちんこを崇める者共に災いあれ」っていう感じです。残念ながら、女はペニスが好きだと思ってる男って少数派ではないっぽいんですよね。ほんの少し前にもツイッターで「ちんこが嫌い」って言ってる女性アカウントにわざわざ引用リプライを飛ばして「神はちんこ嫌い設定はしてない」って言ってる男がいて…ついに神が出てきちゃったよ!と思いました。
 冗談みたいに言ってますが、まぁ、ほとんど信仰みたいなものなんだなって考えると、女性が「男嫌い」「ペニス嫌い」って言い出したときにバグっちゃう男が出てくる現象っていうのも説明しやすいのかなと思ったりもしますね。彼らは、自分たちが崇め奉っている「ちんこの神」を、女もそれを信仰していると勝手に信じているから、当然、ペニスにひれ伏すと思っていた女が、「いや、そんなもん崇めないよ、嫌いだし」と言い出すもんだから、「邪教を信じる悪魔め!」みたいな感じになっているのかな、と考えると説明はできる。まぁ、ちんこごときでそこまでトチ狂うとか、本当に滑稽ですよね。

 フェミニズムに関心がある風な男でも、「女はペニスを欲望する」と思い込んでいるかんじがあるし、セックスフォビア(性嫌悪)をすごく悪しきことのように言う男は多いんですよね。性的なことやズバリ性器を好きだと表明することの方がリベラルであるように思えてしまうのは、性的なことをタブー視して、特に女性がそうした発言をすることを「はしたない」こととしたり、あるいは、性的に奔放な女性と貞淑な女性という二種類の女性を作り出して分断した上で男が女性を管理してきた歴史があるからなのだけれど、そこで女性が「えっちなことが大好きー」「おちんちん大好き」ってなって、誰が一番得をするのか?そして、そのことによって誰が一方的により大きなリスクを背負わされるのか?そういうことをちゃんと考えないで、「性嫌悪は保守的」だと思っている男、「ミサンドリーやペニフォビはダメです」みたいに言っちゃう男は、自分がどれだけ加害的なこと言っているのか、まるで自覚が足りないと思います。
 別にセックスポジティブな女性の存在を否定したいわけじゃないんですよ、私も。ただ、セックスポジティブでない女性を単なる保守的でお堅いだけみたいに扱うのは、ミソジニストが「フェミニストはモテないブスBBA」って言うのと似たようなもんだと私は思うし、「セックスポジティブじゃないフェミニストは似非フェミだ」とか言われたところで、男に共感されるためのフェミニズムじゃないし、男に共感されるようでは「男に都合がいい範囲での前進」しかできないと思うので、むしろ共感されなくて全然オッケ!と思っています。

性嫌悪と女性の「性の自己決定権」

 さっきのリベラル男の「性嫌悪は保守的」って話をもう少し詳しく見ていくと、彼らのいう性嫌悪って、「女性が性に関する話すことをタブー視すること」と「セックスが嫌い」「性的なことが嫌い」がごっちゃになってしまっていて、(PTA的な?家父長性的な?)性的潔癖症みたいなニュアンスも持たせてこの言葉を使っているように思うんですよ。性的な話題をタブーにすることは、セックスワーカーへの差別に繋がったり、女性のリプロダクティヴ・ヘルス・ライツへの言及さえ抑圧してしまうということになりかねない、その結果、女性の人権を侵害したり、女性を命の危険にさらしたりする可能性がある、だから性嫌悪はダメなんだ、という認識なんだと思います。

 でも、ミサンドリストは女性の性欲とか生殖についても結構ストレートに言及してると思うんですね。それに、保守的な価値観に沿うならば、「ペニスが嫌い」と女性が口に出すことだってアウトなんじゃないですかね。そもそも、女性の性欲にペニスは必要不可欠じゃないんですよね。そういうことをミサンドリストは言ってる。そうやって、「ペニスが嫌いである」「自分の性欲にペニスは必要ない」と女性がはっきり言えること、それはすごく大事なことなはずなのに、それは右からも左からも抑圧されてきているんですよね。性的な自己決定権には「性的なことを拒否する権利」も当然含まれるのだから、むしろミサンドリーや性嫌悪は「女性の性の自己決定権」と深く結びついていると言っていいと思います。

 と、いろいろ喋ってきましたが、結局、他人をコントロールすることはできないので、「ペニスフォビアは差別だ」とか「自分は《男性から共感されるフェミニズム》を模索する」とかってひとがいても、私には止めることはできないので、そこはあんまりどっちの方が「正しいフェミニズム」であるかを争う気はないし、偶然でもなんでも一致できるところや共闘できるところがあればそのときはそうすればいいのかな、と思ってます。
 向こうがそう思ってるかっていうと、「あいつらはただのミサンドリーだ」って切り捨てられているような気がするんですけどね。でも、どんな立場であっても女性である限り差別はされるから、小さな一致点であっても、一致できるところがあればそこで共闘していくことが大事なんじゃないかな、と私は思います。

***

今回のホルガ村カエル通信は以上です。

 約1年前に一発撮りした音声コンテンツなので、文末が呼びかけ調なのが若干気持ち悪い&文章としてはわかりにくいところもありますが、言っている内容は別に古くなってないのが恐ろしいところです。ミサンドリーってやっぱり右からも左からも否定されるよなぁ〜とますます感じる今日この頃です。結局のところ、政治も経済も男性が牛耳ってるからそりゃそうか🔥🔥🔥
 なお、最後の「共闘」ですが、別に仲良くする必要はぜんっぜん感じないので、相互ブロックでも同じアンチフェミを批判してたりするのと同じ感じで、たまたま「別個で同じ敵を批判することもあるね」という話なんですよ。わざわざこんなこと言うのは、「自分の嫌いなAの敵だから本来は相容れないけれどBに味方する!」みたいなひとを市民運動界隈でも目にしてきたからなんですが、くだらない上に社会を良くするのに役立たないよなぁといつも思っています。

では、次の配信でまたお会いしましょう〜🐸

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